不妊治療と仕事、どちらかを諦めるしかない現実
──不妊治療専門クリニックを立ち上げたきっかけを教えてください。
西村誠司社長(以下同) 2015年に第三子となる長女を授かりましたが、当時すでに夫婦ともに40歳を超えており、自然妊娠は難しい状況でした。年齢によるリスクも考慮し、アメリカで体外受精の着床前診断を受けることに。結果として12個の受精卵のうち正常と判断されたのは1個だけ。検査をしていなければ、娘を授かれなかったかもしれません。
また、私の弟は日本で不妊治療を受けていましたが、同じ検査を受けられず、子どもを授かることは叶いませんでした。
自分が治療を受けられた喜びと、弟の無念。その両方を胸に、アメリカまで行かなくても先進医療を受けられるクリニックをつくりたいと強く思いました。2021年6月にアメリカから帰国し、1年の準備期間を経て、2022年6月に1号院・新宿院をオープンしました。
──そもそも日本の不妊治療にはどのような課題があるのでしょうか?
着床前診断は、近年少しずつ条件が緩和され、流産や不妊を繰り返す方など、一定の医学的要件を満たす場合には実施できるようになりました。保険適用の範囲など課題は残りますが、確実に前進していると感じます。
ただ2022年の開業当初に強く感じたのは、女性の社会進出が進む一方で、妊娠・出産を経て職場に戻るための社会の体制が整っていないことでした。
そもそも多くのクリニックは夕方には診療を終え、遅くても19時まで。フルタイムで働く女性にとって通院は困難で、結果的に仕事と治療のどちらかを諦めざるを得ないケースも多い。
さらに、会社に休む理由を伝えることがストレスになる人も少なくありません。誰も責めていなくても、「また休むのかと思われているのでは?」と自分を追い込んでしまう。こうした心理的負担も、不妊治療に悪影響を及ぼします。













