原発の設置のかげに戊辰戦争あり

内田 さらに歴史的視野を広げてみれば、原発の設置を決めた人は、そのときに合理的な判断をしているつもりかもしれないけれど、無意識的には、非常に大きな集団的な幻想のナラティブの中で選んでいるという気がするんですよ。『ある明治人の記録 改版 会津人柴五郎の遺書』(石光真人編著、中公新書、2017年)を読んだときにそう思いました。

柴五郎というのは会津出身の軍人で、義和団事件のときに活躍して、ヴィクトリア女王から叙勲されて、日英同盟の基礎を築き、賊軍出身で最初に陸軍大将になった人です。その伝記に、戊辰戦争を生き延びた会津藩士たちが、斗南藩という下北半島の荒涼たる土地に移封されて、最初の冬に餓死寸前の日々を過ごす場面があります。それを読んで、ああ、こんなに侘しいところなのかと思いましたが、考えてみると、六ヶ所村ってそこなんです。

青木 下北半島の付け根に位置する六ヶ所村といえば、ウラン濃縮工場や高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターなどが置かれていることで知られています。そればかりか、同じ下北半島の東通村などにも原発や原発関連施設が集中立地している。

内田 それで、もしかすると原発って戊辰戦争の賊軍の土地に集中しているんじゃないかと調べてみたら、確かにかなりその傾向があるんです。政策立案者たちは無意識のうちに賊軍の土地を選んでいる。先ほど明治政府は教育と医療については明確な哲学を持っていたと言いましたけれど、インフラ開発のための支援は全くしなかった。公共投資をしてない。

原敬は「一山」と号しましたけれど、それは「白河以北一山百文」、奥羽越列藩同盟の土地はただ同然だという明治政府の冷遇に異議申し立てをしているわけです。実際に、東北新幹線の全線開通は2010年、東海道新幹線の開通は1964年ですから、公共投資においていかに賊軍の土地が後回しされたかわかります。

その結果、戊辰戦争の敗者たちの土地は空き地が多い。そして、原発を建てる時に「人がいない広い土地」を探したら、賊軍の土地だということになった。これは政治権力を握った長州人たちが無意識に行っている一種の懲罰なんじゃないかと思います。

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青木 なるほど、戊辰戦争までさかのぼるわけですか……。そういうお話まで聞くと、原発という巨大発電装置とこの国の歴史に関する、さらに別の景色が見えてきそうです。これも歴史的文脈の中で物事を考える作業の重要性ですね。今日は長い時間、貴重な話をありがとうございました。

構成/宮内千和子 撮影/三好祐司

百年の挽歌 原発、戦争、美しい村
青木 理
百年の挽歌 原発、戦争、美しい村
2026年1月26日
2,200円(税込)
四六判/224ページ
ISBN: 978-4-08-789024-2

102歳の古老は、なぜ自ら命を絶ったのか?
東日本大震災、福島第一原子力発電所事故から15年
『安倍三代』の青木 理が満を持して放つ、3・11レクイエム

◆内容紹介◆
2011年4月11日深夜、東北の小さな村で、百年余を生きたひとりの男が自ら命を絶った――。
厳しくもゆたかな自然に囲まれ、人と土地が寄り添ってきた村で、何が彼をそこまで追い詰めたのか。
その死の背景を追ううちに見えてきたのは「国策」という名の巨大な影と、時代に翻弄される人々の姿、そして戦争の記憶だった。
『安倍三代』の青木 理が静かな筆致で、現代日本の痛みと喪失をえぐり出し、美しい村の記憶と、そこに生きる人々の尊厳を描く渾身のルポルタージュ。

◆推薦◆
「この本は、ひとつの村の物語であり、同時にこの国の百年の記録である。」内田樹氏
「”この風景は私”と言えるほど土と人が結びついた暮らしを、原発事故によって断ち切られた人々の喪失が、本書には刻まれている。」藤原辰史氏
「貨幣による豊かさの名のもとに、共同体と暮らしがいかに壊されてきたか。その現実を、本書は静かに突きつけている。」田中優子氏

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