いまも繰り返される「金星」の誤用

ブラジルは常に、サッカーの世界ランキングの上位に位置している。国際試合で格下相手に辛勝したとしよう。

《ブラジル、あわや金星献上》

これは日本語としておかしい。

金星は相撲用語だ。江戸時代から庶民の生活に根ざしてきた大相撲。「同じ土俵に上がる」「ひとのふんどしで相撲を取る」など、日本人の生活の中で普通に使われている言葉がたくさんある。金星もその一つだ。

国技といわれ日本の伝統文化である相撲(写真/Shutterstock)
国技といわれ日本の伝統文化である相撲(写真/Shutterstock)
すべての画像を見る

本来は平幕力士が横綱に勝つことであり、小結以上の役力士が横綱に勝っても金星にはならない。また、横綱が「まげつかみ」などの反則で負けた場合も、相手力士の金星にはならない。横綱の反則負けは2014年秋場所4日目に横綱日馬富士が平幕の嘉風(現中村親方)のまげをつかんだ例がある。

では、横綱に勝って金星をあげた力士には何か特典があるのだろうか。

実は、金星一つで年収が24万円アップする。

「給金相撲」という言葉を聞いたことがあるだろうか。勝ち越しをかけた取組を指すのだが、力士が勝ち越すと「給金」が加算される。8勝7敗なら「勝ち越し1点」で0.5円、10勝5敗なら「勝ち越し5点」で2.5円の加算だ。こうして積み上げていった総額を力士個人の「持ち給金」という。年6度の本場所ごとに、持ち給金の4000倍の額が月給とは別に引退まで支給される。

金星の給金は10円という別格の評価を受ける。1個で場所ごとに4万円、年24万円がもらえる。史上最多金星は安芸乃島(現高田川親方)の16個。金星だけで年384万円もらえる計算だ。

写真/Shutterstock
写真/Shutterstock

大相撲の報道には1世紀以上の歴史があり、先人たちが練り上げた様々な用語や言い回しがある。

たとえば、土俵際で相手を投げたと思ったら、投げて勝ったはずなのに自分のまげが土俵の外周に盛ってある砂に先に触れていた―という場合。「まげのはけ先が蛇の目を掃いていた」なんて表現をする。土俵外周に盛った砂を「蛇の目」という。

相撲担当記者は、まずこれら膨大な言葉遣いを覚えるのに苦労する。

金星にもルールがある。金星は横綱が平幕に与えるものなので、「金星を配給」と書くのが朝日新聞の決まりだ。ありがちなミスが「金星を献上」と書いてしまう。その昔、私も先輩からすいぶん叱られたもんです。