「勇み足」は金星か…記者を悩ませた一番

もう少し、金星にまつわる話を続けたい。

2014年九州場所3日目。結びの一番が終わり、原稿の執筆に入った私は、パソコン画面を前に固まってしまった。この日の結び。横綱日馬富士に「勇み足」があり、平幕の高安が勝った。これを「金星」と書いていいのか―。

「横綱を破った力士=金星」ではない。金星となるのは平幕が横綱を破った時だ。ところが、平幕が勝ったのに金星にならないケースがある。この2ヵ月前の秋場所で、平幕の嘉風が日馬富士から白星を挙げた。だが、これは日馬富士の「まげつかみ」による反則負けで、嘉風の金星ではなかった。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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今回は「勇み足」という、いわば日馬富士の自滅だ。これは高安の金星になるのか。

悩んだ時は相撲協会の広報部に尋ねるのだが、この時はよくわからないとのことだった。こうなると自力で何とかするしかない。まずは、横綱が平幕に「勇み足」で負けたケースの抽出だ。

朝日新聞の身内ともいえる日刊スポーツの記者が、「たしか……」と教えてくれた。

1972年春場所7日目。横綱北の富士が平幕だった貴ノ花(のちに大関。若貴兄弟の実父)に敗れた一番が勇み足だった。

手がかりをつかんだ。この情報の確認だ。当時の紙面を朝日新聞データベースで閲覧。たしかに、勇み足で横綱が負けたことが確認できた。しかし、紙面のどこにも金星とは書いていない。「勇み足」は金星ではないのだろうか。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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そこで、朝日新聞の相撲班が常に手元に置いている歴代横綱の記録台帳を確認した。その貴ノ花戦での北の富士の成績表には黒丸に二重丸が付されていた。金星配給の印だ。横綱が勇み足で平幕に負けた時は金星になるのだ。72年の記事で「金星」と書いていないのは、金星になるのかどうか、当時の記者が締め切り時間までに確認できなかったのだろう。

こうして翌朝刊の記事に書いたのが、

《日馬富士が勇み足で高安に金星を配給》

「金星を配給」という、たった5文字。活字で残る新聞報道の苦労を少しでもご理解いただけると幸甚です。