プレゼントした曲をセルフ・カヴァーし、全米1位に…

1972年に『心の詩(ミュージック・オブ・マイ・マインド)』を発表したばかりのスティーヴィー・ワンダーは、もはやすべての楽器を一人で演奏することに拘りはなく、次のアルバム『トーキング・ブック』では、サックスやギターなどに複数のゲストを迎えて制作していた。

ギタリストのジェフ・ベックもその一人として、『アナザー・ピュア・ラヴ』のギター・ソロとして参加した。そのお礼に、スティーヴィーはジェフに『迷信』という曲を書き下ろしてプレゼントした。ジェフは早速それを1972年のツアー中に演奏している。

スティーヴィー・ワンダー(写真/Shutterstock)
スティーヴィー・ワンダー(写真/Shutterstock)
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ちょうどその頃のジェフ・ベック・グループは、メンバーチェンジを繰り返しながら、最終的に元ヴァニラ・ファッジのティム・ボガート(ベース)、カーマイン・アピス(ドラム)との3人になり、バンド名を「ベック・ボガート&アピス(以下BBA)」としてツアーを続けていた。

しかし、BBAはまだ知名度が低かったこともあり、3人のコンビネーションを高めることや、バンドの方向性を確認するためにも、その年の11月までヨーロッパとアメリカの大規模なツアーを行い、その後にアルバム制作を予定していた。

ジェフ・ベック(写真/Shutterstock)
ジェフ・ベック(写真/Shutterstock)

一方でモータウン・レコードは、スティーヴィー・ワンダーと破格の契約を交わしたにも関わらず、前作『心の詩』からのシングル『スーパーウーマン』がチャート33位止まりだったことから、今度こそは強いヒット曲が欲しかった。

そこでアルバム『トーキング・ブック』からのファースト・シングルとして、スティーヴィーがセルフ・カヴァーした『迷信』を同年11月に強引に発売。それがなんと全米チャート1位の大ヒットとなった。それは、ジェフ・ベックがBBAのファースト・シングルにしようと思っていた矢先の出来事だった。

スティーヴィー・ワンダーの70年代“黄金の3部作”と言われる作品の1作目が『トーキング・ブック』。写真は『トーキング・ブック』(2011年5月25日発売、UNIVERSAL MUSIC JAPAN)のジャケット
スティーヴィー・ワンダーの70年代“黄金の3部作”と言われる作品の1作目が『トーキング・ブック』。写真は『トーキング・ブック』(2011年5月25日発売、UNIVERSAL MUSIC JAPAN)のジャケット

結局、『迷信』はBBAのアルバムには収録されたものの、シングル・カットされることはなかった。そんなこともあってか、レコーディングをほぼ終了していたセカンド・アルバムは、ジェフの意向で幻となった。こうしてBBAは1974年には自然消滅的に解散してしまった。

結局、ジェフは1969年にロッド・スチュアートがジェフ・ベック・グループを脱退して以来、 自分のギタープレイに最も合うヴォーカリストをずっと見つけられずにいた。