常連・真空ジェシカを打ち破った40歳の新星
赤木は理不尽に追い詰められている格好だ。だが、それを強く拒否するわけではない。ちゃんと乗っかるわけでもない。どっちつかずの「おどおど」とした態度。言語化能力の高さが喝采を浴びる時代にあって、赤木の言葉は淀む。逐一引っかかる。
それが緊張感を高め続ける。笑いの基本は緊張と緩和と言われるが、溜まりに溜まった緊張を前に、観客は自らその緩和を求めはじめる。こうなるともう、見る側はたいていのことで笑ってしまう。
「えー……PCR……5年連続……陽性」
このような「問い」と「答え」が対になって進行するネタは、「ボケが羅列的」とされM-1ではあまり高い評価を得てこなかった。しかし、審査員は「赤木の人間性で笑ってる、笑わされる」など軒並み高評価。M-1のこれまでの評価軸を揺るがすほどの漫才だったのかもしれない。たくろうは861点で、暫定2位となった。
この時点で1位はエバース、2位はたくろう、3位は真空ジェシカ。5年連続決勝進出の真空ジェシカが、今年も最終決戦に進むのか。そんな予想を覆すように、伏兵は決勝初進出組からやってきた。ドンデコルテ(小橋共作、渡辺銀次)である。
自己紹介を終えたボケの渡辺が、デジタルデトックスの効果を説きはじめる。スマホ断ちをすると意識がはっきりし、自分と向き合う時間が増える。私はやらないが、みなさんはぜひデジタルデトックスを。なぜ私はやらないかというと――
「渡辺銀次、40歳独身。厚生労働省の定めた基準によると、貧困層に属します」
スマホを断たないのは、そんな自分と向き合うのが怖いから。なぜわざわざ意識をはっきりさせ、現実を直視しなければならないのか。赤木の「おどおど」とは対照的に、渡辺は「堂々」。胸を張る彼の言葉に一切の淀みはない。明瞭すぎる言語化がむしろ狂気となり、緊張からの笑いを生む。


















