最高の大会で唯一残念だったこと
「スワイプ、スワイプ、現実をスワイプ」「いいですかみなさん。目覚めるな」「自民党は、ありません」
私たちが聞いているのは漫才か、演説か、はたまたセミナーか。渡辺銀次、40歳独身。彼を掘り下げると世相に突き当たり、笑いは間欠泉のように吹き出した。審査結果は845点。真空ジェシカを1点上回り、3位に滑り込んだ。
最終決戦はエバース、たくろう、ドンデコルテの3組。結果は周知のとおりだ。たくろうが8票を獲得し、優勝を飾った。2本目のネタで、ドンデコルテは社会性と狂気度をさらに引き上げた。たくろうは挙動不審な言動に日本語吹き替えの違和感を加え、2人のやり取りも増やし、似たパッケージでも目先を変えてきた。
どこまでが演技で、どこからが素なのか。技術と人間性の間にとどまり続け、何か話せば笑いが起こる状態へと自らをもっていった「堂々」と「おどおど」。まさに「意味からの逸脱」(ドンデコルテ・渡辺)である。そんな両極に挟まれ、掛け合いのなかで意味を丁寧に積み上げるエバースは強みを見せきれなかった。
今年もM-1は笑いを更新した。まったく、終わってなどいなかった。唯一冷めたのは、生成AIで描かれたイラストが番組中に紹介されたときだろうか。生身の人間と人間が躍動する姿に心を揺さぶられた直後に、どんな目でそれを見ればいいのか。あそこだけは、もう今年で終わっていい。
文/飲用てれび


















