「インスタにDMでも送っといてください」

〈楽天・前田健太〉入団会見で“自作Tシャツ”配布 37歳、人見知りのオールドルーキーが示した覚悟_3
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前田はメジャーで過ごした10年間での変化について「大人になったことですかね」と笑った。広島時代は「自分を高める意識のほうが強かった」と振り返るが、そればかりではない。日本で「エース」と呼ばれていたころから、彼はすでに大人だった。

きっかけを与えてくれたのは、当時、日本ハムに所属していたダルビッシュ有である。チームのみならず球界のエースとして君臨していた先輩ピッチャーと親交を深める過程で、本来ならライバルであるはずの前田に対して惜しげもなく技術や知識を伝えてくれることに、彼の懐の深さを知った。

「たぶん、ライバルとか思ってないんじゃないですかね。『みんながよくなってくれればいい』っていうか、ダルビッシュさんは自分が伝えることで野球界が盛り上がってくれればいいって考えなんでしょうね」

前田はダルビッシュの深謀に、強いシンパシーを感じていた。だからこそ、自分も広島のエースとして大瀬良大地など次代を担う後輩たちの指標になろうと努めた。

当時の前田の想いに触れれば、より頷ける。

「誰だって今よりよくなりたいと思っているし、悩みを抱えているからこそ僕に聞きに来てくれると思うんで。僕を選んでくれるということは、その人なりの理由があると思うんですよね。自分の言葉とかがきっかけでよくなってくれればすごく嬉しいですし」

日本で9年、アメリカで10年。ピッチャーとして知識と引き出しが増え、人としても艱難辛苦を経て年輪を重ねた。味のある前田の「野球」が、来年から楽天に還元されていくわけである。

前田が控えめに言う。

「『こうしたほうがいい』と押し付けるのは好きじゃないんで。相談してくれたら親身になって答えを出してあげたいなって思います」

チームでは41歳の岸孝之に次ぐ年長者となるが、いかんせん新参者。なにより前田は、人見知りなのである。

楽天で面識があるのは、前田のアメリカ時代のトレーナーから紹介された藤井聖のみ。入団が決まってから契約メーカーの会議で村林一輝と早川隆久と会い、自己紹介がてら「友達になってよ」と頼んだと明かすが、人見知りの安心はまだ満たされていない。

「だから、めちゃくちゃ不安です。『ひとりだったらどうしよう……』って」

楽天におけるオールドルーキーはそう呟き、メディアの向こう側にいるチームメートに対し、このようにアピールするのである。

「僕は気を遣わせるタイプではないと思うんで、どんどん来てもらえるとありがたいです。書いといてくださいよ。『インスタにDMでも送っといてください』って」

文・写真/田口元義