今江監督の解任理由がわからない
「まるで球団を三木谷(浩史)さんは自分のアクセサリーのような感覚で持たれていた。それが20年経っても変わったように思えないのが、とても残念ですね」
東北楽天ゴールデンイーグルス初代監督の田尾安志は、素直に失望の色を隠さない。
今季、交流戦を13勝5敗の好成績で乗り切って球団史上初の優勝に導いた今江敏晃監督がまだ一年契約が残る中で突然解任されたことに続いて、チームの歴史的アイコンともいえる田中将大との交渉がまとまらず、田中は退団を表明した。
「今江監督はよくやっていました。シーズン前の戦力を見て彼に『悪いけど、評論家としては、今季は最下位の予想をさせてもらうよ』と告げたくらいでしたが、僕も計算していなかった新しいピッチャーを育ててどんどん勝ちに繋げていった。
複数年契約の一年目を終えてチーム状態も把握しただろうから、来季を楽しみにしていたのに、まさか切られるとは思っていなかった。解任の理由がわからない」
また、田中将大のリリースについてはこう言及した。
「今年はリハビリに専念して、さあ来年に(残り3勝の)日米通算200勝達成という気持ちでいたと思います。確かに今季は1試合しか登板していないので、減俸交渉になるのはわかっていましたが、決裂したのは、金額が原因ではないのでは。それよりも球団が彼に対してかけた言葉やふるまいの問題ではなかったかと思います」
田尾には忘れがたい経験がある。現役時代、西武に移籍して一年目のこと。1月末の突然のトレード通告によってキャンプもろくにできなかったことから、シーズン成績は周囲の期待を下回るものであった。
それまで、中日との契約更改では毎回、減給のための要素を粗さがしされては、突き付けられており、きつい言葉を覚悟してテーブルについた。
ところが、交渉相手の坂井保之代表は、金額を提示する前に8月の負け試合の中で田尾が放った一本のホームランに触れた。
「君が打ったあの放物線は、夏休みに応援に来た子どもたちにとって負けはしても唯一の楽しい思い出になっただろうね」と言ってくれた。しばし野球談議をした後に「移籍したばかりで慣れない環境で大変だったろう。ただ、今季は前の年に比べて数字は悪い。だから(年俸を)下げてもいいかな?」と訊いてくれたのである。