なぜ楽天だったのか?

37歳という年齢から、人は「衰え」を指摘する。しかし、前田本人はパフォーマンスの低下を感じていない。それどころか、期待をにじませるように強調する。

「あんまり知られていないと思うんですけど、マイナーリーグの先発ピッチャーも、基本は中4日とか5日で投げるんですよ。年齢のことを言われることが多いんですけど、5月からはローテーションを守ってきましたし、自分のなかでは『そうじゃない』ってずっと思いながらプレーしてきたので」

今シーズンは日本のプロ野球の二軍にあたる3Aで20試合に登板し、100イニングを投げた。成績こそ6勝7敗と負け越し、防御率も5.40だったが、シーズン最後の登板でストレートの最速が150キロを計測した。数字が、37歳のピッチャーがまだ下降線をたどるには
早いと後押しする。

前田自身、そこへの強みを打ち出している。

「来年以降に先発をするっていうところでの土台みたいなものは築けましたし、『できる』ことを証明できたんじゃないかな、と」

その「先発としてできる」ことを評価したのが、楽天だった。

事前報道によると、巨人やヤクルトほか複数球団が獲得に乗り出していたとされるなか、前田が楽天に決めた理由がそこだった。

「今シーズン、悪い時期もありましたけど時間をかけて修正できて、最後のほうは自信を持ってマウンドに上がることもできました。

そのあたりを見てくれていた(石井一久)GMから『チームが勝つために一緒に戦ってほしい。優勝しよう』と声をかけていただいて、僕のなかでこのチームで戦うイメージができました。勝つために必要な選手でありたいですし、そう思っていただけることが嬉しかったので入団を決断しました」

前田健太(左)と石井一久GM(右)
前田健太(左)と石井一久GM(右)

楽天で果たすべき使命は、わかっている。新天地で迎える来シーズンの目標を聞かれた前田の言葉に、淀みはない。

「日本一。それだけです」

真っ先に宣言し、個人の道筋も示す。

「先発としては1年間、ローテーションを守って2桁勝利、規定投球回数を最低限として達成したいです」

個人成績よりもチームの目標を真っ先に述べる。そこには、前田に根付く意志がはっきりと見えているようだった。

「ずっとイーグルスを引っ張ってきた選手がたくさんいるので、僕自身が先頭に立ってチームを引っ張るのではなくて、縁の下の力持ちと言いますか、自分の経験を伝えたり、選手が困ったときに相談してもらえたりするような存在でありたいです」