ブレストと壁打ちは似て非なるもの
それでは最後に、もっとも近そうなブレストと比べてみましょう。ブレスト=ブレイン・ストーミングは、その語感から壁打ちとかなり近い印象があるかもしれません。しかし、実は明確な違いがあると気づきました。
それは、「イニシアティブ」です。
ブレストの場合は、複数人が一つのイシューについて対等に意見を交換し合うというイメージで捉えてみてください。Aさんの意見に対し、Bさんが意見を言い、またCさんも意見を出す。まさにストーミング(嵐)のようなアイデアの交換。参加者が対等な立場で、一つのイシューに向かってアイデアを出すので、あえて言うならイシューが主役になるでしょう。
一方で壁打ちでは、はじめのサーブを打ち込む人が主役になります。
WHAT?WHY?HOW?と自分が今明らかにしたいモヤモヤのイシューを打ち込んで、相手の返しを受けて、さらに打ち返していく。最後にボールを受け取るのも、はじめのサーブを打ったその人です。
「それってつまり?」「どうしてそれをやりたいの?」「どうやったらそれができるの?」と問いを重ねていくうちに、ビジョンやネクストアクションが明らかになっていきます。
つまり、「壁打ちをお願いします」とアクションを起こしたその人が、イニシアティブ(主導権)を持ってアイデアを膨らませることができる。誰かからの指示を待って決められたとおりに動くのではなく、自分の中から生まれたアイデアをベースに行動を起こす。壁打ちは「自分起点の思考術」なのです。
だから「壁打ち」。テニスの壁打ちと同じで、あくまでサーブを始めたその人が主体。相手は「壁」なんです。
自分が言い出しっぺとしてイニシアティブが持てる。つまり、自分の行動に主体性を持てる。大袈裟に言えば、自分の人生の主役になれる、壁打ちとはそんな行動なのかなと思います。
それが壁打ちのほかにはない最高の価値なのです。
文/伊藤羊一 写真/shutterstock












