母親が息子を危険因子として見なしてはならない

西井 「キモい」かどうかはともかくとして、男の子がジェンダーの問題に関してこじらせないように親が管理するべき、という論調に関しては僕も思い出すことがあります。2021年に「非モテ」男性の経験する日常や苦悩について分析した『「非モテ」からはじめる男性学』という本を出しました。

レビューなどから読者層を分析すると、ほとんどが当事者の男性だったんですが、読者の中に母親も一定数いたんですね。

ある日、息子がいますという母親から問い合わせのメールが来たことがあったのですが、「うちの子どもがこういうこじれた非モテ男にならないためにはどうすればいいですか」という内容だったんです。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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川口 そういうメールを送らないことじゃないですか。

西井 そうなんですよね。本の中で僕自身も非モテとして苦悩してきたと書いているので、「それを僕に聞くのはさすがに失礼じゃない……?」と思ったんですが、母親たちの息子の成長に対する危機感がすごく強まっているんだなと感じました。

そこには近年SNSを中心に議論が盛んになってきたジェンダー論の影響があると思います。性暴力などの加害者になる可能性は男性のほうが高いので、ジェンダー論に触れて、息子が女性へのミソジニーや執着を高めて加害的なことをしないように教育しようと思うのは当然のことだと思うんです。

ジェンダー論が広まることは重要なことだし、母親が息子を心配すること、それ自体は否定できません。心配するのが母親ばかり、というのが気になるところですが……。ただ、その心配が母による息子の支配と接続したときが怖いなと感じています。

母親による支配はわかりやすい暴力ではなく、見えにくい形で実施されます。「それが正しいから」という理由で息子の行動を監視・管理し、息子が触れる情報や娯楽を制限したり、何か問題が発生しそうなら先回りして未然に防ぐ。

このような育児が行われてしまえば、息子は何が悪くて何が良いことなのか、自分で思考して判断することを放棄して、母に頼り切ることになりますよね。

一種の男性から女性へのケア依存をつくってしまっているわけなんですが、それが「ジェンダー平等のため」という文脈で展開されるとすると危ういな、と。

また、母親が息子を危険因子として見なせば見なすほど、息子は閉塞感を抱くだろうし、もし何らかの問題を起こしたとしても、それを全力で隠そうとするようになると思う。

息子は問題を丁寧に振り返ることができず、さらに問題が発生するかもしれない。「キモい」など男性を否定的に捉えて、矯正させようとする意志が過剰になってはいけないなと思っています。

名著でひらく男性学 〈男〉のこれからを考える
杉田俊介、西井開、川口遼、天野諭
名著でひらく男性学 〈男〉のこれからを考える
2025年10月17日発売
1,089円(税込)
新書判/240ページ
ISBN: 978-4-08-721385-0

〈男〉はそれほどわかりやすくない――。対話で学ぶ、はじめての男性学。
日本では1990年代にいったん注目を集めた男性学が、近年再び盛り上がりを見せている。家父長制による男性優位の社会構造を明らかにするフェミニズムに対し、その理解が進む一方で、アンチフェミニズム的な声も目立つ。また一枚岩的に男性を「強者」として把握できない実像もある。構造の理解と実存の不安、加害と疎外のねじれの中で、男たちはどう生きていけばいいのか。本書は、批評家、研究者、実践者など4人が集まり、それぞれの視点から男性学の「名著」を持ち寄り内容を紹介・解説した後、存分に語り合った。多様で魅力的な男性学の世界にようこそ。

◆目次◆
序章 男性学とは何か――西井開
第一部 名著で読み解く男性学
第1章 ギーザ『ボーイズ』[発表・天野 諭]
第2章 セジウィック『男同士の絆』[発表・西井 開]
第3章 彦坂 諦『男性神話』[発表・杉田俊介]
第4章 コンネル『マスキュリニティーズ』[発表・川口 遼]
第二部 対話編 今、男性について何を語るべきか

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