コロナ禍の「料理疲れ」で惣菜市場が復活

冷凍食品需要の高まりは、ライフスタイルの変化によるところも大きい。女性の社会進出が広がった結果、夫婦共働きが一般的となり、調理に割く時間は相対的に減った。また、コロナ禍によって在宅時間が増加して家で食事をとる機会が増えたものの、日々の食卓に出すメニューのレパートリーに悩む消費者も増えた。

そうした中、冷凍食品や惣菜などの簡便商品は「下ごしらえ不要」「フライパンで炒めるだけ」「レンジで温めるだけ」で調理の手間を省くことができ、専門店のような本格的な味も手軽に楽しめるとあって、需要が伸びたのは当然のことだろう。

総務省の家計調査では「調理食品」に分類される惣菜。在宅時間が伸びたり、外食が敬遠されたりして2020年は「手作り」復活の兆しが見られ、スーパーマーケットの惣菜部門は秋ごろまで苦戦した。だが、「料理疲れ」もあって惣菜の伸びが2021年以降顕著になった。

惣菜市場はコロナ禍による特殊要因を除き、右肩上がりで拡大している。日本惣菜協会の「惣菜白書2025」によると、2024年の惣菜の市場規模は前年比2.8%増の11兆2882億円と、初めて11兆円を突破した。

惣菜・中食市場を牽引してきたのはコンビニエンスストアだ。2024年もコンビニが市場構成比31.2%でトップの販売チャネルだが、ここ数年はスーパーマーケット(30%)が猛追している。スーパーマーケットは下処理などを一括で行うプロセスセンター(集中加工場)の活用をテコに効率化を進める一方、生鮮部門との連携でメニューの幅を広げる。

中食市場の成長に伴い、弁当、サラダ、天ぷら・フライなどの購入回数も増加している。手軽に食べられることはもちろん、栄養バランスも考慮されたものが忙しい現代人に受けている。

中食市場の成長もあって、スーパーでの弁当の売上も伸長している
中食市場の成長もあって、スーパーでの弁当の売上も伸長している
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文/白鳥和生 写真/shutterstock

『なぜ野菜売り場は入口にあるのか スーパーマーケットで経済がわかる』(朝日新聞出版)
白鳥和生
『なぜ野菜売り場は入口にあるのか スーパーマーケットで経済がわかる』(朝日新聞出版)
2025年11月13日
990円(税込)
232ページ
ISBN:978-4022953155

コメ高騰、気候危機、人手不足、値上げ地獄、トランプ関税……
スーパーは日本社会の縮図だ!
売り場に潜む疑問から、日本と世界の現在を読み解く。


「令和のコメ騒動はなぜ起きた?」
「食料品の値上げはいつまで続く?」
「半額シールを貼るタイミングはどう決まる?」
「トランプ関税の家計への影響は?」
「売り場が『野菜→魚→肉→牛乳→パン』の順になっている理由は?」

全国2万3000店舗、110万人が働く、25兆円の成長市場を徹底解剖!
買い物だけじゃもったいない、賢く生きるためのスーパーマーケット論。

【目次】
第1章 なぜ野菜売り場は入り口にあるのか? ――スーパーマーケットの仕組みがわかる
・景気に左右されないビジネスモデル
・イオンが一大勢力、専業ではライフが首位
・「ゴールデンゾーン」の品揃えで店の実力がわかる
・客を奥まで誘導する「マグネット戦略」
・タイパ需要で売り場をアップデート ……ほか

第2章「日本人の○○離れ」は本当に起きている? ――スーパーマーケットで暮らしの変化がわかる
・消費の中心は50~60代
・冷食市場が10年で4割近く拡大
・コロナ禍の「料理疲れ」で惣菜市場が復活
・コメへの支出は20年で4割減
・令和のコメ騒動が起こった理由 ……ほか

第3章 ドラッグストアの食品が安い理由は? ――スーパーマーケットで日本経済がわかる
・小売業の低賃金、その背景
・セルフレジで焦ってしまう高齢者
・深刻化する地方の「買い物弱者」問題
・なぜ食費の高騰は止まらないのか
・高所得層はパスタ、低所得層はうどん・そばを買う ……ほか

第4章 どうして余計なものまで買ってしまうのか? ――スーパーマーケットで消費者心理がわかる
・客の8割が「予定していなかったもの」を買う
・すべての商品で「安い」と感じさせる必要はない
・2割のお得意客で利益の8割を稼ぎ出す
・「無意識」に訴えるニューロマーケティング
・安いだけじゃない、プライベートブランド ……ほか

第5章 食の「買い負け」が安全保障リスクに? ――スーパーマーケットで世界情勢がわかる
・ヴィーガン以外にも広がる「植物肉」
・7割の客が「袋いりません」
・資源インフレに加わった地政学リスク
・ウクライナ侵攻で深刻化したエネルギー問題
・トランプ関税と食料価格 ……ほか

第6章 AI導入で「半額シール」が消える? ――スーパーマーケットで未来がわかる
・商品読み取りから決済までスマホで完結
・AIが惣菜の値引きを決める
・「培養肉」は食料問題を解決するか?
・終わらない「物流の2024年問題」
・「店に来てもらう」ビジネスモデルの限界 ……ほか

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