さまざまな要因
このように世界的に急激に精子数が減少している理由は何なのか?
これについてはさまざまな要因が指摘されている。人間の男性ホルモンであるテストステロンの減少や、生殖器の異常、精巣がんの増加との関連を指摘する声もある。
1992年のカールセン論文の共著者でもあるコペンハーゲン大学病院のニールス・スカッケベックらは、化石燃料由来の汚染物質への曝露の増加が一因ではないかと考えている。
また、家族を持ち始める年齢が上がっていることも結果に影響を与えている可能性がある。もし高齢の男性の方が若年層に比べて精子数が少ないのであれば、それがデータにバイアスをかけている可能性もある。ただし、これまでの研究では年齢の要因は考慮されており、実際には年齢に関係なく精子数が減少していることが示されている。
同時に、体外受精(IVF)といった生殖医療への相談件数も増加している。1978年に世界で初めて体外受精で誕生した「試験管ベビー」ルイーズ・ブラウン以来、これまでに体外受精によって生まれた子どもは800万人を超えている。とはいえ、それは全体から見ればごくわずかにすぎず、今でも自然な方法以外で生まれる子どもは100万人に1人にすぎない。
健康に問題のない世界中の男性で、あらゆる年齢層において精子数が減少しているのだとすれば、その原因はもっと捉えどころがなく、目に見えにくく、しかも広範に及ぶものと考えるほかない。
たとえば、化石燃料由来の物質への継続的かつ低レベルの曝露などが該当するかもしれない。実際、野生動物に女性化の影響を及ぼす汚染物質を特定した研究もある。こうした物質が人間に何の影響も与えないなどとは、考えにくい。たとえば、テストステロンの産生を抑えてしまうような作用があるのかもしれない。
気候変動も一因かもしれない。精子の生成には、体腔内よりも低い温度が必要なことはよく知られている。思春期になると、睾丸が腹部の暖かい内部から外に下がるのは、このためだ。
ライフスタイルも関係している可能性がある。西安交通大学のルー・モーチーらによる中国の研究では、精子の質の低下は中国南部よりも北部で顕著であることが示された。特に北部では、十代の若者の体格指数(BMI)が高い傾向にある。つまり、太っているのだ。












