精子数の減少

タンゴを踊るには2人が必要。つまり、出生率の低下は女性の生殖の選択だけでは説明できない。あまり報じられていないもうひとつの要因として、この数十年のあいだに、男性の生殖能力が急激に低下していることがある。

人間の精子の数は、近年になって明らかに急激に減少している。臨床医たちがその兆候に最初に気づいたのは半世紀以上前のことだが、その原因はいまだにはっきりしていない。

30年前、コペンハーゲン大学病院のエリザベス・カールセンらは、過去50年分のデータを調査し、1940年から1990年のあいだに精子数の平均がわずかに低下したどころではなく、半減していたことを明らかにした。

さらに大規模な研究として、エルサレムのヘブライ大学のハガイ・レヴィンらが2022年に発表した調査では、1973年から2018年のあいだに、健康な男性の精子濃度および総精子数が世界的に大きく減少していることが示された。

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研究者たちは、「人類(および他の生物種)の存続のために、男性の生殖にかかわる健康を重視する必要がある」と警鐘を鳴らしている。

原因はどうあれ、医療関係者たちは精子の数と質の低下を、人類の存続に関わる重大な問題として認識しているのだ。

この研究が特に重要だったのは、従来の調査が主に北米、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドといった地域に限られていたのに対し、今回は中南米、アジア、アフリカのデータを新たに加えた点にある。

つまり、精子数の減少が「西洋」、つまりかつて「先進国」や「工業国」と呼ばれていた国々に特有の現象ではないかという批判に対し、この研究はそれが人類全体に共通する傾向であることを裏付けたのだった。

中国のように現在世界で最も人口の多い国においても、精子数の減少は確認されている。1981年から2019年にかけて30万人以上の健康な中国人男性を対象に行なわれた研究によれば、その結果は「生殖にかかわる深刻な健康上のリスク」を示唆するものだった。