男性不妊とY染色体
大学生や一般市民の方々にY染色体の退化や消失の話をすると、必ずといっていいほど「Y染色体の退化と男性不妊は関係がありますか?」という質問が出てきます。
Y染色体上の遺伝子には、性決定遺伝子の他に、精子形成に必須な機能をもつ遺伝子が存在しています。Y染色体上の遺伝子は、男性になること、すなわち精巣をつくることを決め、つくられた精巣の中で精子をつくるという、男性にとってなくてはならない働きをもつのです。
精子形成に働く遺伝子が存在するY染色体上の場所に欠失が起きると、これらの遺伝子が働かないために精子形成がうまく進まず、無精子症(射出精液中の精子数が極端に少ない、あるいは全くない状態)あるいは乏精子症(精子の数が一般的な値よりも少ない状態のこと。値によって、軽度、中等度、高度に分けられる)という男性不妊症となることが知られています。
これらの遺伝子が存在している場所は、AZF領域(azoospermia factor の略。無精子症因子領域ともよぶ)と呼ばれており、Y染色体にはこのAZF領域が少なくとも3カ所あることが知られています。
ですので、Y染色体の退化と男性不妊は大いに関係があるといえば確かにそうなのですが、ここで少し注意しなければならないのは、少なくとも現時点では、男性不妊の原因は必ずしもY染色体にあるのではなく、多岐にわたる、ということです。
以前は、男性不妊の主原因はY染色体にあると考えられていました。しかし、2000年代に入り男性不妊の研究が進むと、無精子症男性のうちY染色体に原因がある人は7%程度だと報告されています。
つまり、93%はY染色体以外に原因があり、ホルモン異常や精子の通り道である精管の問題などが知られているものの、実は原因不明な場合が最も多いのです。
2021年の調査では、不妊の検査・治療を受けたことのある夫婦は22 .7%(4.4組に1組)であり、2015年の調査結果の18.2%から、増加傾向にあることがわかっています。
また、結婚5年未満の夫婦の6.7%が不妊の検査・治療を受けており、日本は不妊治療大国といわれています。
不妊の原因は女性側にあると考えられがちですが、男女両方に、あるいは男性側のみに原因があるケースもあり、少子化が大きな問題となっている日本では、Y染色体を含め、不妊の原因解明につながる医学研究の進展が望まれています。