急増した感染症
人と動物のあいだで感染が広がるタイプの病気が本格的に広まったのは、人々が長期間にわたって、密集した定住地で暮らすようになってからのことだった。
ニワトリやブタといった家畜とともに生活するようになったことで、人と動物との距離が一気に縮まった。さらに、衛生環境が整っていなかったこと、そして人間の周囲で繁殖しやすい害獣が増えたことも重なって、新たなタイプの感染症が次々と発生する土壌ができあがったのである。
ウシに由来する結核、ネズミとノミを介して広がるペスト、家禽に由来するインフルエンザなど、さまざまな感染症の出現は、農耕の始まりと切り離せない。
とりわけ、動物由来の呼吸器系疾患が人間に広がりうるという事実は、今や地球上の誰もが知るところとなった――私はこの原稿を、COVID‒19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックが続く中で執筆している。
このウイルスの発生源については今も議論があるものの、多くの科学者は、動物との直接的な接触を通じて人に感染したと考えている。感染源となったのは家畜ではなく野生動物だった可能性もある。
一方で、あまり報道されないもうひとつのパンデミックとして「鳥インフルエンザ」がある。これは世界中の家禽に広がっており、すでにウシへの感染も確認されている。ウシのあいだでは乳を通じて感染が広がっており、人間への感染例はまだ限られているが、感染すれば命に関わることもある。
奇妙なことに、飢饉や疫病を従えてやってきた農耕の登場は、人間の数を減らすどころか、人口をさらに増やした。狩猟採集民の女性は間隔をあけて子どもを産む。次の妊娠の前にひとり目の子どもの授乳期間を終えるのが一般的だった。
ところが農耕が始まると、離乳の時期が早まり、そのぶん妊娠の頻度も高くなり、より短いサイクルでより多くの子どもが生まれるようになった。死亡率が高くなっても、それを上回るスピードで人口が増えていったのだ。
青銅器時代や鉄器時代の遺跡から出土した小さな注ぎ口のついた器には、乳児がウシやヒツジなど反芻動物の乳を飲んでいたことを示す証拠が残っている。そして、乳児だけでなく、大人も同じように乳を飲むようになっていった。
だがこれは、冷静に考えればおかしな話である。というのも、ごく最近まで、大人の人間は乳に含まれる糖分ラクトースをうまく消化できなかったからだ。実際、今でもラクトース不耐症の成人は少なくない。













