「今の時代だったら命を絶っていたかも」
――日本学生野球憲章では「部員がプロ野球団体と選手契約または雇用契約などの締結を条件として、金品および経済的利益を受けてはならない」としています。このルールは知らなかった?
プロに入る注目選手はそういうものなのかなと勝手に思ってました。でも自分が悪いんですよ。憲章を読めばちゃんと書いてあるんですから。
――事実、ドラフト上位候補選手が入りたい球団に入団できる「自由獲得枠制度」(1993年に導入された当時の名称は「逆指名制度」)の弊害として、有望選手にお金を渡して交渉を有利に進めようとする球団は多かったと聞きます。
地方から出てきた野球部員なんて仕送りで生活している人がほとんどですから、差し出されたら、学生野球憲章を知らない学生で断れる人なんていないと思いますよ。
――公になっていないものの、多くの学生が裏金を受け取っていたのに、なぜか一場さんだけが実名公表。しかも当時、億単位の裏金が飛び交っていたなかで、一場さんは巨人から約200万円、横浜は約60万円、阪神は約25万円と決して大きい金額ではなかった。今では一場さんも被害者だったという風潮もあります。
いまだに名前が出た理由って当時者の僕もわからないんです。読売グループ内での派閥争いに巻き込まれたと噂で聞いたことはありますが……。
当時は僕自身、知りませんでしたが、他の選手も裏金をもらってることをマスコミが知っていたなら、そういう記事を騒動時に出してほしかったという思いはなくもないです。あの時はマスコミも一緒になって僕を叩いて、世間からは僕が初めて裏金をもらった選手ということになってましたからね。
そういう記事が出ていれば、世間からのバッシングが少しはマシになっていたかもしれませんし。
――そんなに大変だった?
SNSでの誹謗中傷がひどい今の時代だったら命を絶っていた可能性もあるでしょうね。テレビのニュースも新聞も週刊誌も僕の話題ばかり。コンビニへ行くだけでも車が追いかけてくるので、完全に人間不信。後ろばかり気にして歩くようになってました。
――謝罪会見を開いた後、野球部を退部して地元群馬で謹慎生活。
明治の野球部の仲間に挨拶できずに寮を去ったのが心残りですね。春季リーグは優勝できたのに、秋季リーグは4位。僕が迷惑をかけた影響もあるから申し訳なかった。
――事件の影響で日本球界入りが危ぶまれるなか、即戦力がほしかった新規球団の楽天が一場さん獲得に名乗り。無事、自由獲得枠でプロ入りとなりました。
ダメだったらアメリカに行こうと思っていたので、ホッとした気持ちと感謝の思いでいっぱいでした。
――しかし、その入団会見では「メジャーを目指す」という発言をして、報道陣をザワつかせたとか。
アホだったんでしょうね(笑)。そういうつもりで言ったわけではなく、ゆくゆくはみたいなニュアンスだったんですが、緊張もあってあんな感じに……(苦笑)。
――不正の温床になるという理由から「自由獲得枠制度」は2007年に撤廃。ある種、球界の浄化に一役買った形になりましたが。
ただ、将来的にまた復活する可能性もなくはないんじゃないですか。なんだかんだ選手も行きたい球団がありますから。僕の場合だったら両親が巨人ファンで、恩返しのために巨人へ行きたかった。お金をもらってる、もらってない関係なくですね。













