日本の高齢者がん検診の不都合な現実
日本では、自治体にもよるが後期高齢者医療制度の下で75歳以上も無料で検診を受けられる。一見すると素晴らしい制度に思える。しかし、これが本当に高齢者のためになっているのか、私は疑問に思う。
厚生労働省の指針を見ると、がん検診の推奨年齢は基本的に69歳まで。75歳以上は明確な対象になっていない。にもかかわらず、多くの自治体が独自判断で無料で検診を続けている。統一的な基準もなく、科学的根拠も曖昧なまま、惰性で続いているのが現状だ。
その結果、何が起きるか。不必要な検査、過剰診断、そして過剰治療。医療費は増大し、高齢者の生活の質は低下する。誰も得をしない仕組みが続いているのだ。
自己責任という選択肢
だから私は思う。75歳以上のがん検診は、原則として自己責任でいいのではないか。
誤解しないでほしい。私は高齢者の健康を軽視しているわけでも、切り捨てようとしているわけでも、どうなってもよいと思っているわけでも当然ない。むしろ逆だ。
画一的な検診システムから解放され、本当に必要な医療を選択する自由を持つべきだと考えている。
検診を受けたい人は自費で受ければいい。その際、医師から過剰診断のリスクについて十分な説明を受け、自分で判断する。これが本来あるべき姿だろう。
実際、国際的なトレンドは「共有意思決定」に向かっている。医師が一方的に検診を勧めるのではなく、患者と話し合い、その人の価値観や人生観に基づいて決める。75歳を過ぎたら、このプロセスがより重要になる。
予防医療の本質を見直す
ただし、全ての検査を否定するわけではない。
例えば、血圧測定や基本的な血液検査など、侵襲性が低く、治療可能な疾患を見つけられるものは別であり、しっかり行うことが重要だ。
ドイツの研究では、75歳向けの基本的な健康スクリーニングが救急受診を減らし、医療費削減につながったことがわかっている。これは理にかなっている。高血圧や糖尿病などの管理は、年齢に関係なく重要だからだ。
高齢者では血圧は下げなくて良いとか、コレステロールはコントロールしなくてよい、などの健康を簡単に害する有害な暴論に与しているわけでは当然ない。
問題は、がん検診のような「早期発見・早期治療」を謳う検査だ。若い世代なら意味がある。しかし、高齢者では話が違う。発見されたがんが、その人の余生に影響を与える可能性は低い。むしろ治療による負担の方が大きい場合が多い。