有効性が証明されている癌検診は数える程しかない
私も病院で、職場健診を受けるよう義務付けられている。この「義務」は、以前はそう厳しくなかった。がんセンター勤務の頃はほとんど受けなくても別に何も言われず、当時は胸のレントゲンだけ撮っていた。これは肺癌が怖かったのではなく、結核チェックのためである。呼吸器疾患を専門とすると、肺癌と紛らわしい結核患者を診ることもある。万一感染していたら、家族はじめ周囲に迷惑をかける。癌は、なったらその時に考えようと思っていた。
次の病院では途端にやかましくなり、渋々健診を受けたら、叩けば埃があちこちから出た。中でも、便検査で潜血陽性(血が混じっている)と指摘され、2010年に大腸内視鏡をやる羽目になった。そこで見事にポリープがいくつも見つかって、うち一つは高度異型腺腫、つまり大腸癌になりかけと診断されてしまった。胃のポリープは原則として癌化しないが、大腸ポリープ(のうち腺腫と呼ばれるもの)は徐々に悪性化してついには本物の大腸癌になる。
ただし枝野さんのセリフではないが、「癌になりかけ」だから「直ちに危険というわけではない」。切除してしまったので、ここから本物の癌が育つことはない。しかし、そういうのが一旦見つかった人間は、またできる素因がある。「先生は基本毎年、最低でも2年に一回、内視鏡しなければダメです」と引導を渡された。ちなみに、内視鏡でポリープが全くない、「きれいな大腸(クリーン・コロン)」であった人は、10年は再検査の必要がないらしいが、そういう人を羨ましがっても仕方がない。
なんのかのと逃げて、3年に一回くらい検査しているが、それでも2020年にはまた最初より大きい高度異型腺腫が見つかり、切除したところ「(まだ)癌とするほどではない」というくらいのヤバさだった。以来、廊下で大腸外科医に会うと、「そろそろ(内視鏡は)どうです?」なんて挨拶代りに言われてしまう。
さて、癌は早期発見・早期治療が大切と言われ、むろん間違いではないが、闇雲に検診を受ければいいというものではない。現在、癌検診で有効性(死亡率低下)が証明されているものは、大腸・乳腺・子宮・肺など、数える程しかない。「全体的に癌をチェックする」と称し血中腫瘍マーカーのセットによる検診がよく行われるが、個人的にはあんなの金の無駄だと思っている。私は以前、週刊新潮コラムで「血液一滴の癌検診」を批判したが、そういう方法を開発するのであればせめて「胃癌の疑い」とか「肺癌の疑い」程度までは結果を出して欲しい。「どこかわからないが、癌があるかも」では全身を調べなければならず、手間もコストもかかる。本人も検査続きで肉体的にも消耗するし、「癌かもしれない」という精神的な負担も大きい。