毎年3万8000人が「予防できたはずの死」を迎えている

日本の医療システムの非効率性について語る上で、外すことができない例は胃がんだ。2023年時点で年間3万8000人以上が胃がんで亡くなっている。

これは先進国の中でも異常に高い数字だ。しかも、その原因の大部分がヘリコバクター・ピロリ菌という、除去可能な細菌によるものだということが科学的に証明されている。

若年発症の胃がん、特に未分化型胃がんの多くでピロリ菌感染が関与している。つまり、中学生の段階で徹底的に対策を打てば、将来の胃がんの大部分を防げる可能性があるのだ。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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なぜ中学生なのか――タイミングが全てを決める

胃がん対策において、「いつやるか」は決定的に重要だ。

胃の粘膜は、ピロリ菌に長期間感染していると徐々に萎縮していく。この萎縮が進行すると、除菌しても胃がんリスクの低下は限定的になる。しかし、胃粘膜の変化がまだ軽微な中学生の段階で除菌すれば、その予防効果は最大化される。

現在の日本の中学生のピロリ菌感染率は5%以下。つまり、今この世代に集中的に介入すれば、将来の胃がんを劇的に減らせる。これは千載一遇のチャンスなのだ。

ピロリ菌除去による胃がん予防効果に関する研究では、除菌によって胃がんリスクが50~66%減少することが証明されている。特定の遺伝的要因を持つ人がピロリ菌に感染すると、胃がんリスクは22.5倍にまで跳ね上がるが、これも除菌で防げる。

そして重要なのは、これらの研究の多くは成人を対象にしたものだということだ。中学生という、胃粘膜がまだ健康な段階で除菌を行えば、生涯を通じた予防効果はさらに高まる可能性が高い。

若年発症胃がんの多くがピロリ菌関連であることを考えれば、中学生での集中的な対策による「胃がん撲滅」は十分に現実的な目標だ。