「デジタル・デモクラシー」

今を生きる女性たちの連帯と同じくらいに重要なのが、世代間の継承である。

海外では、「中絶の権利」「身体的自律」「中絶薬の安全性」といった論点の多くは、過去に莫大な議論が尽くされ、今では科学的根拠や人権の枠組みに基づいた国際的なコンセンサスが形成されている。

しかし日本では、バックラッシュなどの影響もあり、基本的な性の知識や、ウーマンリブさえ知らない若年層も多い。世代交代のたびに「1から」勉強して運動を始めるのでは、リプロの権利の獲得に膨大な時間と手間がかかるだろう。

過去の女性運動の実績や知識を次世代へ継承する努力は、リプロの権利の状況を過去に逆戻りさせないためにも不可欠である。

世代を超えた連帯と継承の現代的実践の1つとして、若い世代の間で急速に広がる「デジタル・デモクラシー」に注目したい。

「生理の貧困」の解決、緊急避妊薬の薬局購入、女性だけの意思で不妊手術が受けられるように…ようやく認められてきた日本の「女性の当然の権利」_4
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SNSを通じて性やリプロに関する情報共有が進み、オンライン署名、ネットでのパブリックコメン提出、「ツイデモ」(旧ツイッター[現・X]で同一のハッシュタグをつけて多人数で同時投稿を行うこと)などの新たな社会参加の手法が定着している。

さらに、オンラインで参加できる講演会や勉強会、それらのアーカイブ動画の配信を通じて、これまで参加が難しかった層にも議論と情報共有が広がっている。一般市民も自らの体験を発信し、多様な手段で声を上げることで効果的に社会変革を促している。デジタル時代の連帯による世代間の知の継承は、今後さらに拡大していくだろう。


*1 「世界中で不妊手術は認められている、でも日本ではできない。それを私たちは知らない」(「CALL4」、2025年4月18日) https://www.call4.jp/story/?p=2569

*2 芦野由利子「私とSRHRとの出会いから、今まで」(「JOICFP」、2023年4月12日)https://www.joicfp.or.jp/jpn/people/yuriko-ashino/

(URLは2025年7月30日アクセス)

写真・イラストはすべてイメージです 写真/shutterstock

産む自由/産まない自由 「リプロの権利」をひもとく
塚原 久美
産む自由/産まない自由 「リプロの権利」をひもとく
2025年9月17日発売
1,089円(税込)
新書判/240ページ
ISBN: 978-4-08-721380-5

妊娠・出産したいか、したくないか。いつ産むか、何人産むか──。そのほか、中絶、避妊、月経、更年期に伴う心身の負担など、生殖関連の出来事全般に関し、当事者がどのような選択をしても不利益なく生きることのできる権利を「リプロの権利」という。1990年代、女性にとって特に重要な権利として国際的に定義・周知されたこの人権について、日本でほぼ知られていないのはなぜなのか。中絶問題研究の第一人者が国内外での議論の軌跡をたどり解説する。少子化対策と称し「出産すること」への圧力が強まる今、必読の書。

【目次】
はじめに~日本社会から欠落している「リプロの権利」の視点
序章 リプロの権利は「人権」のひとつ
第一章 リプロの権利はいかにして生まれたか
第二章 人口政策に翻弄された日本の中絶・避妊
第三章 二〇〇〇年代、日本政府の「リプロ潰し」
第四章 世界はどのように変えてきたのか
終章 日本の今後に向けて
おわりに

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