変わる中絶についての意識
中絶についての人々の意識も確実に変化している。2023年の日本家族計画協会の第9回「男女の生活と意識に関する調査」によれば「人工妊娠中絶を認める」割合は全体の68.5%に達し、「最初の人工妊娠中絶を受ける時の気持ち」として「人生において必要な選択」と回答した女性の割合は、2017年から2024年の間に12.5ポイント上昇した一方で、「胎児に対して申し訳ない気持ち」「自分を責める気持ち」は減少した。
法律への挑戦としては、2024年2月、母体保護法によって「自身が希望した不妊手術」を受けられなかった女性たちが、「わたしの体は母体じゃない」訴訟を提起した。
原告たちは、本来、女性は自らの意思だけで不妊手術を受けられるべきであり、母体保護法の要件を満たさなければ不妊手術を受けられないことは、生殖に関する自己決定権を侵害する違憲状態だと主張し、法廷で国を相手に闘っている*1。
性暴力に対する社会的抗議の声も高まっている。2017年、ジャーナリストの伊藤詩織は自身の性暴力被害を実名・顔出しで訴え、民事訴訟を起こして2019年に一審で勝訴した(2022年、最高裁で勝訴確定)。
また2019年は、複数の性暴力事件で無罪判決が続いたことを受けて「フラワーデモ」が全国で展開され始めた年でもある。これらの活動は日本版「#MeToo 運動」として広がり、刑法性犯罪改正(2023年施行)にも少なからぬ影響を与えた。
これらはすべて、女性たちをはじめとする市民が声を上げることで実現してきた変化である。中絶や避妊、月経、性暴力などの従来タブー視されてきた話題が徐々に公の場で語られるようになり、新聞一面に「中絶」という言葉が掲載されることも珍しくなくなった。
近年では日本の若い世代、特に女性たちが国際的な場にも積極的に参加している。2024年にジュネーブで開催された国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)の日本審査や、ニューヨークでの国連女性の地位委員会(CSW)には、数多くの若いアクティビストが自費やカンパで参加し、日本の現状を訴えながら国際的なネットワークを構築している。
国内でも、多様な背景を持つ候補者や若年層の国会議員を増やす市民運動が活発化しており、特に若者の声を政治へ直接反映させるための取り組みが拡大している。これらの経験を通じて、グローバルな視点から日本の制度的遅れを認識し、変革を求める声はさらに高まりつつある。
これらの活動は、新しい世代の女性たちが年上の世代とは異なる感覚でリプロの権利を捉えていることも示している。
若い世代は「自分のからだは自分のもの」という感覚をより自然に獲得し、「女性の健康に関する情報を隠す必要はない」と考えている。彼女たちはオンラインでのつながりを活かし、月経や性、中絶といった話題についても自由に発信し、新たな形の連帯を作り出している。こうした変化は前の世代の運動の成果でもある。