多様な連帯の可能性

実際、長年にわたってリプロの権利を含む女性の権利を保障するために、さまざまな立場や背景を持つ人々が連帯してきた。「女のためのクリニック準備会」(現・ウィメンズセンター大阪)が1984年に活動を開始した際のメッセージには、連帯の本質が端的に表現されている。

「私達女性は、年令や生活、考え方が違っていても、同じ様に自分の体や性にまつわる悩みや不安を経験しています。また、これまで自分達の体について、女達がお互いに話し合ったり、知ったりする機会があまりありませんでした。」

(中略)
私達はより多くの女達と語り合い、話の中身を共有し、今までの、分断された状況を打ち破り、同じ体を持つ女同士の輪をつくりたいと思います。
(女のためのクリニック準備会編集・発行『中絶 女たちからのメッセージ』1985年)

同様に、「グループ・女の人権と性」を仲間と共に1982年に設立し、日本にリプロの権利概念をいち早く紹介した芦野由利子(現・ジョイセフ理事)は、その本質について次のように説明している。*2

リプロダクティブ・ヘルス、リプロダクティブ・ライツ、SRHRという言葉が提唱する新しい概念は、性道徳や宗教、家父長制、国の人口政策などによって管理され、支配されてきた女性のからだと性を、女性自身の手に取り戻す、という考えが核になっています。

具体的には、避妊・妊娠・出産・中絶など性と生殖に関わるさまざまなことがらを、健康と権利の問題として位置づけ、必要な情報・手段・ヘルスケアサービスを、生涯を通して保障することです。

「生理の貧困」の解決、緊急避妊薬の薬局購入、女性だけの意思で不妊手術が受けられるように…ようやく認められてきた日本の「女性の当然の権利」_3

これらのメッセージは、多様な立場の女性たちが共通の経験や課題を基盤として連帯すること、すなわち「シスターフッド」の重要性を示している。

「妊娠しうるからだ」を生きる人々は、妊娠や出産に関して1人ひとり異なる考えや要望を持ち、さまざまな選択肢を望んでいる。すべての当事者が自分の身体について自ら決定する「リプロの権利」を必要としているのである。

ただし、現代では「女性として連帯する」という呼びかけ自体が複雑な反応を引き起こすことも認識しておくべきだろう。性自認やジェンダー表現の多様性が広く認識されるようになり、「女性とは誰か」という問いそのものが変容している。

また「交差性(インターセクショナリティ)」という概念も、連帯のあり方を複層化させている。これは、階級、人種、障がいの有無、性的指向などさまざまな属性により、リプロの権利を求める際にその人が直面する障壁が大きく異なるという考え方である。

たとえば日本に住むシスジェンダーの女性でも、経済的余裕があるか、居住地が都市部か地方か、日本語を話せるかどうかなどで、リプロの権利を獲得できる度合いは全く異なる。

世界ではこういったリプロの権利の不平等を構造的な問題と捉え、社会全体を改善していこうとする「リプロダクティブ・ジャスティス(Reproductive Justice)」という概念も生まれている。この概念を取り入れ、「誰1人取り残さない」社会を求めることが、真の連帯につながるのではないか。