受験撤退後の次男は…
このまま過ごさせれば、次男は大きな傷を負う。直感でそう感じたまりーさんは撤退を決断した。
「『中学受験やめよう』と次男に言ったら、『サッカークラブにまた行きたい』と言いだしました。そこで昔の仲間たちとサッカーをしながら、笑っている次男の姿を見たんです。『私、いつから次男の笑っている顔を見てなかったんだろう』と気づいて…。かわいそうなことしたなと心の中で謝りました」
周囲に中学受験撤退の報告をすると、もれなく「もったいない!」と言われた。でも、次第に元気になる次男を見て後悔はなかった。小学校生活の残り3か月、次男は笑顔で過ごし、心も親子関係も壊れることはなかった。
「きっとあのまま追いつめられて勉強をしていたら、勉強が嫌いになっていたと思うんです。社会に出てもいくつになっても、人は一生勉強をするものだから、中学受験をすることで勉強が嫌になってしまうのであれば、やる意味はないのではないでしょうか」
その後、次男は公立の中学に進学。高校受験でも相変わらずやる気をださず、あっけなく志望校に落ちた。しかし、高校2年生で突然、「東大に行く」と言い始め、猛烈に勉強をし始めたという。残念ながら東大は合格しなかったが、現在は慶應義塾大学に通って、ある専門分野を研究している。
「中学受験撤退を考えているということは、子どもの体調・親子関係・家族関係、何かしらに歪みが出ているサインなのかもしれない。だからこそ、勇気をもって撤退するのも一つの方法だと思っています。
私たちは撤退したものの、中学受験はやってよかったと思っています。あのとき得た学びが今の学びの知識に繋がっていると次男の研究内容を見て思います。たとえ少ししか勉強していなかったとしても、そこで得た思考や知識は何も無駄になっていないと思うんです」
走り続ける勇気もあれば、立ち止まる勇気もある。その一歩が、親子にとって本当の価値がある『進路』になることもあるはずだ。
取材・文/集英社オンライン編集部