高齢者の負担能力が低いというのは本当なのか?
総務省によると、2024年9月15日時点の65歳以上の高齢者数は3625万人で、前年に比べて2万人増加し、過去最多となった。日本の総人口に占める割合はおよそ3割であり、5人に1人が75歳以上の後期高齢者になろうとしている
団塊の世代が全員、後期高齢者になる「2025年問題」で医療費の総支出額が増すことはかねてより懸念されてきた。いよいよそれが現実のものになったわけだ。
75歳以上の後期高齢者は会社員や自営業、無職を問わず「後期高齢者医療制度」に加入する。これは病気になりやすい後期高齢者を現役世代で支えようというものだ。公費が約5割、現役世代が4割、高齢者が1~3割の負担となる。
後期高齢者の窓口負担は、2022年10月に一定の所得がある人に対して1割から2割に引き上げられた。日本医師会は窓口負担を増やすことに対して、受診控えを助長するとして反対の姿勢を示していた。
しかし、厚生労働省が窓口2割負担導入に関する影響を調査したところ、医療サービスの利用割合は1%、医療費総額が3%、医療サービスの利用日数が2%程度減少したに過ぎなかった。負担増の影響はほとんどなかったのだ。
高齢者の多くが生活費における医療費負担の心配をしており、確かに高齢になるほど医療費そのものは高くはなるが、実際の負担額は驚くほど少ない。厚生労働省によれば、75歳から79歳までの平均的な医療費は77.3万円だが、自己負担額額は7万円、保険料は8.9万円だ。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、高齢者世帯の平均所得金額は312.6万円であり、その他の世帯(高齢者世帯と母子世帯を除いた世帯)の664.5万円と比較すると少ない。
ところが、世帯ごとの人数の違いを調整し、さらに税金・社会保険料を除いた平均等価可処分所得金額は、高齢者世帯が218.5万円で、その他の世帯が313.4万円だ。その乖離は驚くほど小さくなる。
石破茂首相は参院選を前にした7月5日の「選挙ドットコム」の9党党首による討論会で、高齢者にも負担能力を持つ人はいるとしたうえで、「能力のある人にどうやって負担してもらうかは重点的に考えなければならない」と語った。
投票率の高い高齢者の医療費負担の問題は長らく敬遠されてきたが、いよいよ本格的な議論が必要になっているはずだ。