政府側には不穏な雰囲気が…
というのも、政府側の動きには、常に不穏な雰囲気が通奏低音のように漂っているからだ。
先ごろ議事録が公開された内閣官房の全世代型社会保障構築会議(6月23日開催)では、複数の参加委員が
「高額療養費制度の見直しについては、国民皆保険の持続性確保のためにやはり必要なものであると考えます。改めて結論を得るとされている本年秋に向けて丁寧に冷静に議論を進め、来年から着実に実行に移していただきたいと思います」
「高額療養費制度については、物価連動の部分まで据え置かれたという今回の事態は大変残念であります。(中略)物価上昇分を反映することは当然として、適切な結論を導いていただきたいと思います」など、自己負担上限額の引き上げは当然、という論調の意見を述べている(この議事録は内閣官房ウェブサイトで全文参照可能)。
現在でも負担感が強いとされる支払い上限額をさらに引き上げると、費用を支払うことができずに治療を諦める(≒緩やかな自死を選択する)制度利用者が増加する懸念や、治療を継続しても貧困に陥る(破滅的医療支出)可能性が高くなることは、冬に議論が紛糾した際にも疾患当事者や医療現場からさんざん指摘されてきた。
また、「物価上昇分の反映」という政府側の言い分が制度運用の実態にそぐわないという批判も、経済学者や医療関係者から上がっている。
このように、当初の〈見直し〉案は各方面からの指摘や批判を矢ぶすまのように受けたために、政府は「凍結」せざるをえなかったわけだが、6月の全世代型社会保障構築会議での上記委員発言を見る限り、どうやら当事者たちの切実な意見や専門家の指摘は彼らの耳には届いていないか、あるいは耳を貸す気がなさそうであることが、議事録の記述からうかがえる。
これらの発言は参院選前に開催された会議で行われたもので、現在のように政局が混乱する前の時期であることは多少考慮する必要があるかもしれないが、政府の姿勢は基本的に今も同様だと考えて差し支えないだろう。
何よりもこれらの発言が懸念されるのは、昨年冬に高額療養費制度の〈見直し〉案が提起されたのは、そもそもこの全世代型社会保障構築会議での発言が出発点になっていた、という事実があるからだ。