トラブルを未然に防ぐには 

今回、起きた事例に関して宮内氏はこう見解を述べる。

「後見人の弁護士に手続きの代理権があるからといって、後見人が何をやってもいいわけではありません。認知症であっても被後見人の『意思』の確認と尊重、そして入居させる必要があったかなどの『必要性』、金銭や文化が見合っているかの『相当性』の3つを満たしている必要があります。

嫌がる被後見人をむりやり老人ホームに入れたとなれば、問題視される事案です」

実際に、このようなトラブルを未然に防ぐ方法はあるのだろうか。

「成年後見制度」には、判断能力のある本人が将来の後見人を自ら選ぶ「任意後見人」と、認知症などで判断能力がないことを条件に、家族や自治体などが申し立てをし、家庭裁判所によって選定される「法定後見人」の2種類がある。宮内氏は、

「この制度に関するトラブルのほとんどが悪質な『法定後見人』によって引き起こされています」

と指摘する。そのため認知症になったときに備え、約束事を公正証書に記す「任意後見人」の制度を宮内氏は勧めている。しかし、利用者件数全体の98.6%を「法定後見人」が占めているのが現状だ。

「認知症になった先のことまで考えている方はまだまだ少ないです。問題は誰が後見人になるかということ。『任意後見制度』を利用すれば、誰にどんなお願いをしたいか文書で裁判所に提出することもできるので、個人ができる最大の防衛策となります。

あとは、やはり家族が後見人になれるように事前に話し合いを進めておくことも大切です。家庭裁判所も本人のことを本当に考えてくれている家族や親族、信頼できる第三者を選任する責任があると思います」

超高齢化社会を迎えた今、成年後見制度は誰もが関わる可能性の高い仕組みでもある。本来守られるべき人が傷つくことのないように、私たちも関心を持ち続けていくべき問題だ。

いまだに老人ホームを退所できない状態が続いている
いまだに老人ホームを退所できない状態が続いている
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取材・文/集英社オンライン編集部