「すべて手作りなので、とにかく時間がかかるんです」

――異国の地でお店をオープンして、大変だったことは何ですか?

一番大変だったのは、やはり言語ですね。私は2023年9月に日本に来て、まだ2年たっていないんです。24年3月22日にお店をオープンしたときも日本語がまったくわからなかったんです。

――そこから、この短期間でどうやって日本語を話せるようになったのですか?

家で息子の面倒を見ながらテレビで日本語を聞いたり、移動中はラジオを聞いたりしていました。それから、夫に日本語を教えてもらうこともありました。今でも、わからない単語があればすぐ夫に聞くようにしています。

文蓮姫さん(撮影/集英社オンライン)
文蓮姫さん(撮影/集英社オンライン)

――日本で北朝鮮の味を作り出すために苦労したことはありますか?

うちの冷麺は、日本から北朝鮮に行った後、北朝鮮南西部の海州(ヘジュ)で平壌冷麺店を営んだ母方の祖母の味がルーツです。それを母が受け継いでアップググレードしました。母は30年以上経験を持つ料理人で、料理の研究を続けてきた人です。

その味を出せる食材を日本でも入手しようと1年くらい探しましたが、醬油から塩まで全然違うんです。それで食材の中でお肉と野菜は日本のものを使っていますが、それ以外は毎月韓国にいる母から送ってもらっています。

お店の看板メニュー「水冷麺」(撮影/集英社オンライン)
お店の看板メニュー「水冷麺」(撮影/集英社オンライン)

韓国って今すごく物価が高いんですよ。しかも円安だし、送料もかかるから大変です。従業員の給料も出さなければいけないから、正直今の値段(1杯1200円)ではきついです。

それでも、旦那さんとは「今の値段で通ってくれているお客様に申し訳ないから、しばらくはこのままでやっていこうか」と話しています。

――オープンしてから1年以上経ちました。

ありがたいことに、平日でも昼夜問わず毎日行列ができています。今は従業員を3人雇っているんですが、それでも休憩がほとんど取れない日も多いです。

午前11時半のオープンに向けて、毎朝8時から準備を始めても、毎日ギリギリ。すべて手作りなので、とにかく時間がかかるんです。

うちの冷麺は作りおきができないんです。時間が経つと麺はのびるし、ぬるくなるのでテイクアウトもやっていません。作りたてを食べてほしいんです。

母が韓国でフランチャイズをやらなかったのは、それが理由なんです。同じレシピでも作る人によって味が変わってしまう。それなら1軒だけで長く続けて100年、200年続くような店を目指そうと母は思ったんです。私も無理にフランチャイズ化しようとは思っていません。

お店自慢のキムチ(撮影/集英社オンライン)
お店自慢のキムチ(撮影/集英社オンライン)
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――今後の目標は何ですか?

小さなキムチ工場を作って千葉県内のスーパーで1日30〜50個くらい販売できるようにするのが目標です。今は店に来た人しか買えないけど、より多くの人に食べてもらいたいですね。3年以内にスーパーで並べられるようにすることが目標です。

後編では脱北までの北朝鮮での生活を聞いた。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班