加害者も元被害者の可能性が高い
30年以上にわたり産婦人科医として数多くの多産DVの女性と接し、富山県議会議員としてもDV防止政策に取り組む種部恭子氏に多産DVの背景、多産女性の心身への害などについて話を聞いた。
「産婦人科医として多産DVの被害女性と接する機会が多かったのは当然ですが、県議として活動する中で加害男性とも接点ができました。
『妻と子どもが出ていき、接近禁止を命じられたが子どもに会いたい。何とかしてもらえないか』などの陳情(公の機関に対し、特定の事柄について具体的な意見や要望を伝える)を聞くためです。
そうした男性には社会的地位の高い方もいて、『一家の大黒柱だから妻が従うのは当たり前』という考えのもと家庭でも妻と子どもを支配している。
聞くと、自身もそうした家庭環境で育ったため、支配することで相手を苦しめているという自覚がないんです。加害者も元被害者かもしれません」
さらに、男性は女性たちが想像するより遥かに女性の身体のことを知らないという。妊娠経験のある女性は、妊娠したことのない女性より生物学的年齢が高い傾向があり、妊娠回数が多いほど生物学的年齢の進行スピードは速まる。
「妊娠中や授乳期は、胎児や乳児へのカルシウム供給のために母親の骨に蓄えられたカルシウムも利用されるので骨密度低下や歯がもろくなるリスクがあります。
周産期死亡や母体合併症(妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など)を引き起こさないためには、妊娠の間隔を18ヶ月程度あける必要性が報告されています。
多産の背景にDVがある場合には、早産、低出生体重、うつ病や適応障害の罹患率のみならず自殺率も上がるとのデータもあります」
それだけではない。月経前症候群や更年期障害にも多産DVが影響を与えるケースがあるという。
「女性は産後はもちろん、月経前や更年期といったホルモンが低下する時期に抑うつの症状に悩まされる方が少なくありません。
そのケアもままならないなか、避妊を拒否され意に反して出産した子の育児でエネルギーを消耗すれば、月経前や更年期の症状は強く出やすいのです」