日本の経済格差は、今後さらに拡大する
河野 現在と当時の違いをお話ししておくと、戦後の通貨制度は固定相場制です。1971年にブレトン・ウッズ体制が崩壊しますが、その代替制度として導入されたスミソニアン体制が1973年に崩壊するまで、為替は基本的に固定相場制でした。
また、その後も1980年代に入るまでは資本規制が続き、国内でも規制金利の時代が続いていたため、通貨調整は比較的ゆるやかなペースで進みました。
そんな中、イギリス政府は「金融抑圧」を行ったのです。金融抑圧とは、名目金利を人為的に低く抑制することで、実質金利を低く抑え込むことをいいます。具体的には、当時、インフレは5%程度だったのですが、名目金利を3%程度に抑え、実質金利は深いマイナスが続くわけです。
金融機関が保有する国債についても借換債の購入が義務付けられていて、その利回りも低く抑えられていました。このため、金融機関も預金金利を低く抑え込むから、預金金利はインフレにまったく追いつかず、預金の実質価値は目減りが続きます。
結果的に、物価が上がった分だけ政府の税収は増えるから、金融抑圧によって長い間、預金者はインフレ税を課されていたわけです。
しかし、資本規制があるから、預金者は海外にお金を持ち出すこともできません。そして何が起こったかというと、お金は国内では動かせたので、まず預金者は、資産防衛のために株や不動産を買うようになり、それらの価格は上昇を続けました。
ただし、1970年代になると、オイルショックなどで世界的な高インフレが発生し、インフレ率は2桁に上昇します。これが先ほどの、1976年のポンド危機につながるわけです。
そのときは企業業績も大幅に悪化したため、さすがに株価は低迷しましたが、不動産価格は上昇を続けました。
唐鎌 それは完全に2022年以降の日本で起こっていることですね(笑)。
河野 はい。違いは、当時のイギリスと比べ、現在は資本規制がないから、為替を通じた調整が速いペースで起こっているということかもしれません。2011年10月の1ドル75円から、1ドル160円までの円の減価率は53%ですから。
ただ、人々の暮らしは豊かにならないのに、株価や不動産の価格ばかりが上昇するというのは、本当に近年の日本に似ていますね。
唐鎌 聞けば聞くほど、日本は歴史を繰り返しているのでは……と実感します。もしそうなら、日本でも経済格差は、今後さらに拡大することになりますね。
インフレを前提とすれば、資産を「持っている人」と「持っていない人」との間で、保有資産価値の格差がどんどん広がっていく。それは不動産、株式、外貨などリスク性資産すべてについて言えるかと思います。
特に近年の日本で注目されるマンション価格の高騰は、その象徴的な現象だと思います。普通の収入の人が、普通の場所に、普通のサイズの家を買うことがどんどん難しくなっている現状において、早いうちに家を買った人が、資産防衛に成功したことになってしまう。インフレの本質は「早い者勝ち」ですから、まさに日本もそういう社会になったのだと感じます。
要は不動産だけでなく、高級車、高級腕時計、ウイスキーなど様々な現物資産において、「早い者勝ち」が徹底される現象が顕在化してくるのではないか、と。
もちろん、資産価格なので上下動はあるでしょうが、現物資産価格の上下動に注意を払う必要があるという状況自体、日本人はあまり慣れていないと思います。