「人口世界一」は推計の不思議
「今後25年でインドを先進国にしなければならない」
国のかじ取り役を担うモディ首相は、2022年8月に開かれた独立記念日の式典で、独立100周年にあたる47年に先進国入りを目指すと宣言した。
1990年代前半から経済の自由化を進めたインドは、各国からの投資を誘致し、IT分野などのサービス業を成長させた。
国連経済社会局は2023年4月末までにインドの人口が世界最多の14億2577万5850人に達し、それまで世界一だった中国の人口を抜いたとの〝推計〞を発表した。
悠久の歴史を誇るインドが世界一に――。
日本でも社会科の授業で習うかもしれない大事なニュースだと思い、必死に原稿を仕立てた。ただし、人口を〝推計〞と書いたのには理由がある。
通常、国連の人口統計では各国の国勢調査などのデータを参考に推計値を出していくが、インドで最後に国勢調査が公表されたのは11年にまでさかのぼる。本来は21年に実施されるはずだったが、コロナ禍で延期され、27年に実施するとしている。このため、人口の推計値のズレも大きくなる恐れがあるのだ。
とはいえ、人口の増加は成長の原動力と言われる。
インドでは今も毎年2000万人もの子どもが生まれている。日本の出生数が24年に70万人を下回ったのと比べると、状況は大きく違う。
インドの年齢中央値は23年時点で28.1歳。日本が49歳であることを考えるとその若さが際立つ。インドはまさにいま、子どもと高齢者以外の生産年齢人口の割合が分厚く、経済を押し上げる「人口ボーナス」期を迎えているのだ。
もともと、1947年に英国から独立した時点で、インド国内には3億5000万人近くが暮らしていたとされる。当時は高い乳児死亡率や避妊への理解不足、農村での労働力の必要性などから、5人以上子どもがいるような家庭が一般的だった。貧困や食料難、失業、不十分な教育機会といった問題も深刻になった。
対応を迫られたインディラ・ガンディー政権は70年代、強制的な不妊手術などを導入した。だが、インドは「民主主義国」をうたう。強制的な政策に国民は強く反発し、政権基盤を揺るがすほどの事態になった。それ以来、政府による人口抑制政策の導入は難しくなった。