「人口爆発は将来の世代に多くの問題を引き起こす」

先進国入りを目指すモディ氏も、人口の急増には慎重な姿勢を見せている。2019年の演説で、「人口爆発は将来の世代に多くの問題を引き起こすだろう」と訴え、「小さな家庭を持つ人々は国への愛国心を表している」とも述べた。

人口の抑制を狙い、子どもが3人以上いる親を役所の仕事に就けなくしたり、地元の選挙に出馬できなくしたりする規定が設けられている州もある。中央政府も17年、女性の産休期間を12週間から26週間に延ばす一方で、3人目以降は期間を据え置くとの通知を出した。

人口の多いインドの乗車率は世界の都市鉄道の中で最も高い
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だが、人口問題を研究するインド国立応用経済研究所のソナルデイ・デサイ教授(65)は「家庭の子どもの人数に立ち入る政策は、細心の注意を要する問題だ。政府が人口を管理できるような政策の実施は不可能と言える。自治体が抑制策を設けても、徹底されていないケースは多い」と言う。

貧困層が多い北部のウッタルプラデシュ州の当局が、21年7月に発表した人口抑制案も物議を醸した。子どもが2人までの親に光熱費や税金を軽減するほか、1人なら子どもの教育費を無償にし、教育機関・政府機関へも優先的に入れる権利などを与えるとしたのだ。

逆に3人以上の子どもがいる親は公的補助が受けられなくなり、政府機関での就職や昇進を認めないとしていた。市民からは「差別的だ」と大きな反発を招き、実施には至っていない。

とはいえ、女性の就学率の向上や社会進出、政府による避妊具の無料提供などによって、少子化傾向も現れ始め、都市部の合計特殊出生率は1.6まで下がってきた。総人口は今後40年近く増える見込みだが、いずれは少子高齢化への対応を迫られるだろう。ある政府職員は、こうこぼした。

「かつては人口が増えた日本や中国も高齢化に悩んでいる。人口が増えるということは、その分、雇用もインフラも整えないといけない。仕事がなければ失業率が高まり、社会が不安定化してしまう。人口世界一は喜ぶべきニュースではない」

文/石原孝 伊藤弘毅

『インドの野心』人口・経済・外交――急成長する「大国」の実像(朝日新聞出版)
石原孝 伊藤弘毅
『インドの野心』人口・経済・外交――急成長する「大国」の実像』(朝日新聞出版)
2025年8月12日
990円(税込)
272ページ
ISBN:978-4022953315
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