「商業メディアやSNSは炎上をあおる傾向があり、公共的対話を劣化させる構造的課題を抱えている」民主主義をテックで支援する「プルラリティ」で対立の橋渡しを
先日の選挙でも誤情報の拡散、外国人差別などの感情的対立の先鋭化などの問題が顕在化し、健全な政治言論空間の維持が困難になっていた。特に商業メディアやSNSプラットフォームは「炎上」をあえてあおる傾向があり、公共的対話を劣化させる構造的課題を抱えている、と指摘するのが社会学者の鈴木寛氏だ。文部科学副大臣も歴任した鈴木氏が1990年代以降に実践してきた経験をふまえ、日本におけるプルラリティの展開可能性と課題について論じる。
結論
Plurality Movementは、デジタル・テクノロジーの活用にとどまらず、ハンナ・アーレントなどが主張してきた思想なども融合させた大変有望な試みである。過去20年以上にわたる実践を通じて様々な経験をしてきた筆者も、このムーブメントに積極的にかかわっていきたい。
今後、プルラリティの日本社会への導入・普及を図るためには、ノーマル・マジョリティの巻き込みが欠かせない。政治家の設定する言論空間は炎上などによって、政府が設定する言論空間はその知識的能力と時間的負担の壁によって、ノーマル・マジョリティにとっては、そのどちらにも近寄り難いものとなっている。この克服にまずは注力していくことが不可欠である。
同時に、デジタル民主主義の発展にエネルギーを傾注する社会的リーダーのモチベーションの確保も重要な課題となっている。
台湾のデジタル民主主義の実装に貢献したオードリー・タン氏 撮影/もろんのん
多くの市民の応援と勇気によって、これらの問題が改善され、デジタル民主主義が進展することを強く期待している。
文/鈴木寛
PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来
オードリー・タン (著)、 E・グレン・ワイル (著)、 山形浩生 (翻訳)、⿻ Community (その他)
2025/5/2
3,300円(税込)
624ページ
ISBN: 978-4909044570
世界はひとつの声に支配されるべきではない。
対立を創造に変え、新たな可能性を生む。
プルラリティはそのための道標だ。
空前の技術革新の時代。
AIや大規模プラットフォームは世界をつなぐと同時に分断も生んだ。
だが技術は本来、信頼と協働の仲介者であるべきだ。
複雑な歴史と幾多の分断を越えてきた台湾。
この島で生まれたデジタル民主主義は、その実践例だ。
人々の声を可視化し、多数決が見落としてきた意志の強さをすくい上げる。
多様な声が響き合い、民主的な対話が社会のゆく道を決める。
ひるがえって日本。
少子高齢化、社会の多様化、政治的諦観……。
様々な課題に直面しながら、私たちは社会的分断をいまだ超えられずにいる。
しかし、伝統と革新が同時に息づく日本にこそ、照らせる道があると著者は言う。
プルラリティ(多元性)は、シンギュラリティ(単一性)とは異なる道を示す。
多様な人々が協調しながら技術を活用する未来。
「敵」と「味方」を超越し、調和点をデザインしよう。
無数の声が交わり、新たな地平を拓く。
信頼は架け橋となり、対話は未来を照らす光となる。
現代に生きる私たちこそが、未来の共同設計者である。
「卒近代」この意識を持つことで、今の閉塞感に溢れた世の中が、全く違って見えてくる。 VUCAの時代、BEYOND GDP、ウェルビーイングの現代を生きるために必須のキーワード「卒近代」。 平成令和の吉田松陰とも呼ばれる東京大学教授・鈴木寛(すずかん)による「新たな時代の羅針盤的ガイドブック」。 LINEヤフー会長・川邊健太郎氏との特別対談も収録。
テクノ専制とコモンへの道 民主主義の未来をひらく多元技術PLURALITYとは?
李 舜志
2025年6月17日発売
1,188円(税込)
新書判/264ページ
ISBN: 978-4-08-721369-0
世界は支配する側とされる側に分かれつつある。その武器はインターネットとAIだ。シリコンバレーはAIによる大失業の恐怖を煽り、ベーシックインカムを救済策と称するが背後に支配拡大の意図が潜む。人は専制的ディストピアを受け入れるしかないのか?
しかし、オードリー・タンやE・グレン・ワイルらが提唱する多元技術PLURALITY(プルラリティ)とそこから導き出されるデジタル民主主義は、市民が協働してコモンを築く未来を選ぶための希望かもしれない。
人間の労働には今も確かな価値がある。あなたは無価値ではない。
テクノロジーによる支配ではなく、健全な懐疑心を保ち、多元性にひらかれた社会への道を示す。