世帯年収は3000万円超あった
彼女の父は経営者だという。母は外資系金融機関に勤める。母の年収は1500万円くらい、父はそれ以上だという。合計しても世帯年収3000万円だ。
人並み外れた癇癪を持った父と、虐待される我が子を見てみぬふりどころか精神的加害を加える母の2人が、キャリアでそこまで成功を収めるとはとても信じがたい。
「父は完全に二重人格。優しい表面を持ちながらキレたときはあまりに恐ろしいから、従業員も精神的に支配されているんじゃないかな。児童相談所の職員に『良いご両親ですね』と言われたことが印象に残っています。
一方の母は、小さいころは被害者意識を共有できる存在でした。しかし次第に強くなる父の支配に、私をサンドバックにしていきました」
こどもの虐待の背景にある多くは貧困だ。しかし世帯年収3000万円があっても、母の「慰め」でしかない彼女に使われるお金はなかったという。
「高校と大学の費用は自分で捻出しました。バイトは週5でやっていたけど、私が思い通りに生きているのが気に食わなかったからか、母に稼いだお金を搾取されました。
援助交際もしました。お金が必要なのもあったんですが、父との行為を上書きしたくて。どんなに年が離れても、見た目が好きでなくても、お金をくれればなんでもやりました。そうやって月12万くらい稼いだけど、学費と自分が生きていく分だけで消えていきました」
香菜さんは表情を変えずに淡々と話す。時折、こちらの質問に控えめに「はい」とだけ答え、先の言葉が続かない。“人に理解してほしい、話を聞いてほしい、大変だったねと言ってほしい”そんな他人への期待など一切感じられない。
「大学生から一人暮らしを始めましたが、物理的に暴力がないとかの意味では楽になりました。けど、相変わらず生きることは辛い。
お金もないし、中絶をしたせいか『人殺し』って幻聴が聞こえたり、夜フラッシュバックが起きて猛烈に辛くなって、眠れなかったりします」