警備員ロプカン、シゴトの根源を問う
ロプカンは学校教育を受けていない。英語は全く話せないし、読み書きもできない。筋道立てて物事を考えたりしない。文字や論理だなんて概念は道端に捨てられたバナナの皮みたいに、彼にとってはちっとも重要なことではない。
でもそれは彼が私より劣っていることを意味しない。
ロプカンはクロード・レヴィ=ストロースの言葉を借りていうなら、「野生の思考」の持ち主だ。彼は彼のロジックで世界を解釈して生きている。だからこそ、私が普段当たり前に信じて疑わない概念は、いつも彼によって前提からひっくり返される。
ロプカンは、私たちの農場で働く警備員の1人だ。5月のこと。貯水池の完成に伴い地域住民の中から数人を警備員として雇い入れた。巨大な貯水池に人や動物が落ちてしまっては大変だ。3人の警備員がシフト制で、施設の警備を行う。その警備員の1人がロプカンだ。
「英語を話せる人材を集めてほしい」と関係者にお願いをしたけれど、なぜかロプカンだけは一言の英語も話せなかった。呼ばれたのか、勝手に来たのか、それすらよくわからなかった。
英語を話せない人材を警備員として採用することには組織としての抵抗があった。緊急時においても言葉が通じなければ対処できない。通訳を挟むのも時間的コストがかかってしまう。
それでもロプカンには当初から、何か光るものがあった。大きなイヤリングを両耳につけて、レゲエカラーのベルトを短パンの腰に巻きつけたロプカンは、警備員としての威厳とRPGの主人公のような風格を持ち合わせていた。
「ロプカンに懸けてみよう」
こうしてロプカンは仲間たちとともに、私たちの警備員となった。そしてここから彼の内なる才能がどんどん開花し、私たちにシゴトの根源を問うようになっていく。
組織で働いた経験がないロプカンには、当初から少しばかり頭を悩ませていた。英語が通じないこともあり、私たちの指示を把握していないこともあった。それでも彼の任務は、農場のゲートに立って関係者以外を中に入れないというシンプルなものだったから、続けられるだろうと私は安直に考えていた。
しかしある日、農場のゲートが開きっぱなしになっていた。近くには警備員もいない。ゲートの警備担当はロプカンだった。私たちは彼を探し回った。