肥料高騰とパンダの帰国でウンコ由来の肥料に追い風
山口 農業の取材を続けるなかで、汚泥肥料に対する風向きが最近ちょっと変わったかなとも感じます。やっぱり化学肥料の高騰が、大きいですね。
話題が変わりますけど、パンダが和歌山のアドベンチャーワールドから中国に返還されるとニュースになりました。あれは、和歌山出身の二階俊博さんの中国への影響力が、ダメになったからだと見ることもできます。
中国・北京に住んでいたときに、日中の政治家が交流する会合を手伝ったことがあるんです。2010年代の初めでしたが、日中の間を取り持てる政治家は、二階さんくらいだと感じました。そのルートが切られちゃったとしたら、日本が中国に依存している化学肥料の調達は、ますます難しくなりかねません。中国からの安定的な輸入は将来、できなくなるかもしれない。
こうした肥料の高騰に加えて、科学リテラシーを身につけた農家が増えてきたことも、汚泥肥料を広める追い風です。SNSで情報発信するようなインフルエンサー的な農家で、もっと使ったらと提言する人が出てきていて。農業側にそういう前向きな変化があるので、活用が進んでいけばと期待しています。
湯澤 農業で使うときに必ず聞かれる「重金属はどうですか」っていう話も書かれています。今は工場排水の浄化処理も昔と変わってきて、問題になる濃度で重金属が出ることはまずないと。そういう変化も知らずに「危ない」といって議論をストップしちゃうのは、もったいない。何か活用のヒントはありますか?
山口 そうですね。本来、有機農業で使えたらいいんでしょうけど、今の有機農業の枠組みだと汚泥肥料を使いづらいこともあって、難しいところです。
湯澤 規制の問題ですか?
山口 規制と、あとは感情の問題でしょうか。
汚泥肥料を使ったら、有機農産物を名乗れないという問題があります。ヨーロッパでは原則として汚泥肥料を有機肥料とは認めません。でもそれはヨーロッパの規制だから、日本がそのまま従わなくてもと思います。
感情の問題としては、有機農業に取り組む農家ほど、重金属といった汚染物質が含まれることを警戒する傾向にあります。
こうした肥料を使う農家からすると、食べ物を目の前にして、実は下水処理場から出たものを使ってますとは、言いにくいんです。たとえば神戸市のマルシェで農産物を売っている農家は、その場でお客さんに下水のことは、さすがに話しづらいと言っていました。
もっと前の段階で、消費者に情報がちゃんと伝わるしくみがあれば、手に取ってもらいやすくなるかもしれません。