食育20周年に「衣食住便」広めたい
湯澤 教育で言うと、日本は食育に力を入れています。食育がちょうど今年で20年を迎えるんですね。
食育に、「出す」ところまで組み込んでいけたら、いいですよね。食べることと出すことは、ひとつながりです。「衣食住」にトイレや排泄を足した、「衣食住便」にしようと言っているんです。
山口 衣食住便。良い言葉ですね。確かにそういうことまで教育してくれたら、肥料としても使いやすくなります。
湯澤 食育はとてもうまくいったんです。さらに出すことにつなげられたら、大きい意味での環境教育になります。肥料やコンポスト、食品残渣の話なんかが食育に入ってもいいですよね。
山口 身近なところに、ウンコの処理にかかわる施設があると知らない人は多いです。
湯澤 社会科見学でも、下水処理場を見学先にしている地域はまだまだ少ないんじゃないでしょうか。
本の中で、下水道を社会の「静脈」から、エネルギー源にもなる「動脈」に変えていかないといけないとありますね。これまでは、老廃物を排出する静脈と捉えてきたから、注目されないし触れられないという状態が長く続いた気がします。
下水処理場は見学も受け付けているし、社会に開かれているけれど、知られていない。『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか』を出した後に、ウンコ関連の児童書を何冊か手掛けました。これは、学校の自由研究でウンコの話が増えるといいなと思ったんです。
山口 ウンコに関する展示会が最近、立て続けに開かれていますね。東京六本木で開かれた「ゴミうんち展」(2024年9月27日~2025年2月16日)とか、東京ドームシティの「うんち展」(2025年3月18日~5月18日)とか。風向きが変わってきているのかもしれません。
湯澤 流れを作ったということでは、岸田文雄前首相が、汚泥由来の肥料の活用に力を入れていたみたいですね。ウンコの活用には、決める力を発揮していたと。その鶴の一声で始まった肥料としての活用は、今も続いているんですか?
山口 続いているのは間違いないです。国交省も農水省も、以前より俄然、力を入れています。
石破茂首相がどう考えているか、取材できてないので分からないんですけど。コメの話が農政の焦点になっちゃってるんで、そこまで考えてないんじゃないかな……。後回しにされてる感じがします。
経済からはじかれてきたものを書く
湯澤 ウンコもそうですが、本来は経済を支える基盤として機能しているのに、経済学の対象としてはじかれてきたものって、ありますよね。この間、日本農業経済学会で花の話をしたら、こんな発表は初めてだって言われて。びっくりしませんか?
山口 そうなんですか! 農業では、花卉栽培ってすごく重要ですけど。
湯澤 でも日本農業経済学会で花を取り上げたのは、私ともう1人だけだって言われて、衝撃を受けました。花は特に女性の嗜好品と見なされて、その経済性が評価されにくいってことだと思います。
オランダで17世紀に起きた「チューリップ・バブル」は、世界初のバブルとして、経済学の教科書に載るような話です。オスマン帝国から入ってきたチューリップがオランダで大人気になって、球根が投機対象になって値上がりしたんだけれど、あるとき価格が崩壊し、経済が大混乱に陥ったと。経済学で花というと皆、あれくらいしか知らないんですね。
これまでの経済学の潮流において、経済の対象としてあまりみられてこなかったけれど、確固として存在する。そういうものを今も追いかけて研究しています。
山口 そうなんですね。書くのは、難しいですか?
湯澤 書いてみると、やっぱり難しいですね。散々大事だと言われているものを書くときは、自信を持って書けますけど。本当に大事と思ってるのは、私しかいない……みたいな話ですから。やる気も出ますけど、書くのが難しい。
田中 どういうふうに形にしていくのか、すごく関心があります。
山口 形になるのが楽しみです。
文・構成/山口亮子 写真/集英社オンライン