農協改革を進める土壌は整ったか
ただし、組織改革の兆しはある。小泉進次郎氏の農林水産大臣就任だ。小泉農相は2015年に農林部会長に就任し、農協改革に取り組んでいた。問題視していたものの一つが、JAグループの運営体制だった。
農林中金は100兆円もの資産を保有しているにもかかわらず、貸出金は18%程度。さらに農業部門への貸出金残高は600億円程度で推移している。総資産に占める割合は0.1%にも満たないのだ。
農林中金のパーパスにはこう掲げられている。「ステークホルダーのみなさまとともに、農林水産業をはぐくみ、豊かな食とくらしの未来をつくり、持続可能な地球環境に貢献していきます」。
まるで農業の発展に尽力することが使命であるかのような文言が並んでいるが、実際は農業部門への貸し出しはごくわずかなのだ。一方で、農業には多額の補助金が投じられている。これで持続可能な農業など実現できるはずもない。
小泉氏は金融機関として然るべき農業融資を行なうことや、補助金からの自立を求めた。JAグループを切り分けて各地域の農協が独立し、地域の事情に沿ったサービスを提供することを目指したのだ。JA全中を頂点とするトップダウン型の組織形態から、ボトムアップ型への転換である。
権力を失ったJA全中は迷走しており、農協の幹部や職員からも冷ややかな目で見られている。システム開発の失敗や資産運用の巨額損失により、世間の目も厳しさを増した。これだけの失態を重ねて、やり過ごすことができるのだろうか。
取材・文/不破聡 写真/shutterstock