1.8兆円もの巨額損失を出した責任は?
かつてJA全中は全国の農協に対して監査・指導権を持つ“農協の司令塔”ともいえる強大な組織だった。しかし、安倍政権が農協改革に着手し、2015年に監査権をなくす改革案にJA全中が合意した。2019年に一般社団法人となり、農協を統括する力を失った。現在はトップ組織が形骸的に生き残っているのだ。
組織理念には「代表・総合調整・経営相談の3つの機能を誠実に果たします」とある。だが、今年に入って起きたコメ価格高騰では、農協が買い占め、流通を止めているのではないかという誤った批判が消費者から噴出したが、これに対して十分な説明をすることもなかった。
山野徹会長は5月の定例会見で、コメの価格は「決して高いとは思っていない」と発言する始末だ。これは生産者側に立っての発言だろうが、日に日に価格がつり上がる消費者からすれば、不満の声が上がるのは当然だ。とても農協の「代表」という機能を果たしているようには見えない。
最近ではグループの中核組織でも大失態があった。金融部門である農林中金が2025年3月期に1.8兆円もの巨額損失を出したのだ。2022年にアメリカが利上げに踏み切り、低利回りの外国債券で調達金利が運用利回りを上回る逆ザヤが発生した。その際、約17兆円分を売却したが、1.3兆円もの売却損が出てしまったわけだ。
この金融部門は農協の心臓部に等しい。農林中金は農林水産事業者の金融機関であり、預かった資金を金融市場で運用して利益を出している。市場での資産運用規模は50兆円だ。
実は農協は農業関連事業が恒常的な赤字で、資産運用を通して得られた利益で損失補填を行なうという構図が定着している。金融部門の弱体化は組織全体にまで波及しかねないのだ。
一連の問題を受け、農林中金のトップだった奥和登氏は今年3月に理事長の座を去った。奥氏は外債に偏った運用方針を推し進め、巨額損失の直接的な原因を作り出した張本人だ。
すでに2022年3月期から外債の評価損を出しており、導火線には火がついている状態だった。その後も評価損は膨らみ続けたが、何ら問題視されることはなかった。1.8兆円もの損失を出したことが明らかになって、ようやくトップが交代したわけだ。
農林中金は50兆円もの資産を運用している割に、人材も手薄だった。メガバンクでは運用に豊富な経験を持つ人材を資産運用部門の責任者・役員に配置するのが常識だ。しかし、農林中金は役員にあたる理事の7人全員が内部昇格の執行役員であり、市場運用経験者は2人しかいなかったという。
指導する立場にあったJA全中は、農林中金の資産運用状況をつぶさにチェックすることなく、人員配置も見誤った。その組織の役割を疑問視されるのも当然だ。