みんな言わなくても、密かにやってるんじゃないか
悠馬が、母親と関係を持っていることが通常ではないと気が付いたのは、ごくごく最近だった。「みんな言わなくても、密かにやってるんじゃないかって思っていました。ポルノでよくあるじゃないですか?みんな最初は、親に教えてもらって覚えていくんじゃないかって思っていたんです。ひとりだけ、打ち明けた友達がいたんですが、彼に、母親となんて絶対にないと言われて……。ああ、そうなのかと……」
悠馬は次第に、過干渉な母親の存在を疎ましく感じるようになり、母親の身体を受け入れる気にならなくなっていた。
一方、恵理子は、
「恭子さん、助けて!息子に冷たくされて……。私、あの子がいないと、生きていけないのに……」
そう言って、よく私に電話をかけて来るようになった。
恵理子は悠馬に何を望んでいるのか。
「わからないんです……。母親として、息子の幸せを願う気持ちもあるんです。嘘じゃありません。でも、女として、どうしても認めたくない、許せないっていう思いがあって、自分でもどうすればいいのか、苦しいんです……」
性の悩みをざっくばらんに語り合える同性の友達はいないのだろうか?
「いません……。母親同士の付き合いはありますが、どこかライバルという気が抜けなくて、とても家庭の恥など見せられないんです」
性的な満足を得たいのならば、女性用風俗などを利用するのもひとつである。韓流スターにハマった時期は、子離れできていたのならば、同様の「推し」を探すのもひとつだ。
「お金で性を買うっていうのは、どうしても抵抗があります。じゃ、不倫とか、恋愛ができるかといったら、私は恋愛経験がないので、相手から拒絶されるのが怖いんです……」
他人に拒絶されるのが怖いとは、裏を返せば、恵理子は息子であれば何でも受け入れてくれると思い込んでいるのだ。息子への絶対的支配欲は、息子だけではなく、恵理子自身をも苦しめているのである。
「もうそろそろ、息子さんを解放してあげたら恵理子さんも楽になるのではないですか。いくら子どもでも、一生一緒にいるのは無理でしょう」
私がそう伝えると、恵理子は泣きながら、
「そうですよね。ちゃんと、母親の最後の務めを果たさないといけないですよね」
ようやく恵理子は、悠馬を手放すことを決意したように思えた。
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