「妻より母親が大事」
息子一筋の母親に対して、息子が母親一筋だったかといえば、そうではない。悠馬は「恋人」という特定の相手を作らないまでも、大学に入った直後から、複数の女性たちと関係を持っていた。母親に女性の存在がバレてしまうと面倒なことになると思い、自分の自宅に女性を呼ぶことはなかった。
すべて一時的な快楽で、特別だと思える女性に出会えたのは、母親から嫌がらせを受けた看護師の女性が初めてだった。
しかし、その彼女とも、母親の犯行が発覚した後、別れることになってしまった。
「僕の母親がしたことなんだから、許してくれてもいいはずなのに……。結局、彼女は他人なんで、血のつながった母親の方が大事ですよ。妻の代わりなら、いくらでもいますが、母親はひとりだけですから」
息子の決断に、母親は喜んだが、果たしてこれでいいのだろうか……。
「妻の代わりならいくらでもいる」と女性を蔑ろにするところは父親と同じだった。悠馬の父親もかなりのマザコンで、妻の料理より母親の料理が食べたいと実家に行くことが多く、息子にも、「妻より母親が大事」と口癖のように話していたのだ。
それでも悠馬は、いつかは結婚して、自分の家庭を持ちたいと望んでいた。
「もちろん、父はそれを望んでいますが、母はこの先も、邪魔してくるのではないかと不安です……」