「お前の頭がおかしい」――相談窓口の効果がない理由

その後、Aさんは適応障害と診断され、勤務先を辞めることになった。そして今は新しい職場で働きながら、多額の養育費と子どもと会えない寂しさを抱え続けている。

「行政もDV被害者向けの相談窓口を設けてはいますが、私の実感としては、そこに相談しても何も変わらないと感じてしまいます。結局のところ、加害者が変わらなければ状況は改善しませんから。

過去に元妻にカウンセリングを受けるよう勧めたこともありますが、その際は『そんなことを言い出すなんて、お前の頭がおかしい』と逆上され、むしろ怒りがエスカレートするだけでした。

私としては、男性がDV被害を受けているという事実が軽んじられている現状と、子どもを一方的に連れ去った側が親権を得やすいという、今の制度の歪みが見直されることを願っています」

子どもとの別れが一番の辛さに(画像、Shutterstock)
子どもとの別れが一番の辛さに(画像、Shutterstock)
すべての画像を見る

2026年には共同親権制度の導入が予定されている。だが、制度が変わったとしても、こうした問題がすぐに解消されるわけではないだろう。

最後にAさんは「“子どもを取り上げる”というDVの形が存在していることが、世の中にもっと知られてほしいです。私は暴言や暴力を振るわれるよりも、別居後お金だけ取られて、子どもに会えないことがなにより辛いです」と話す。

男性のDV被害は、もはや特別なことではない。一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、性別にとらわれず平等に物事を捉える姿勢が、社会全体に求められている。

取材・文/集英社オンライン編集部