「色恋がなくなったら、ただのカフェと同じ」
次に話を聞いたのは、過去に年間売上2億円超えを記録し、2024年にはTikTokライブで年間18億円もの売上を叩き出したトップホストの「プリンスこうや」氏だ。
彼が今年6月にオープンさせた「CLUB Princess」では、業界では異例ともいえる「ホストと女性客のLINE交換禁止」というルールを打ち出した。その背景には、過去に起きたある失敗が関係しているという。
「昨年1月にオープンしたばかりの店舗が、18歳未満の女性を入店させたことで風営法違反となり、営業停止処分を受けて閉店せざるを得ませんでした。今となっては言い訳にしかなりませんが、その女性は身分証を偽造して入店していたようです。
“トー横”界隈で補導された際、所持品検査でスマホの中身まで確認され、うちの従業員とのLINEのやりとりが証拠となって摘発されました。年齢確認を徹底していたつもりでも、偽造された身分証で入店されたら防ぎようがありません。
だからこそ、次に店を出すときは『LINE交換禁止』をコンセプトにしようと決めていたんです」(プリンスこうや氏)
また、LINE交換禁止をコンセプトにしたのには、次のような意図もあったという。
「お客様とのLINEのやりとりは、ある意味ホストの仕事の一部。でも、営業時間外にまで踏み込んで、女性客のメンタルをケアするような営業を続けるのは大きな負担ですし、法改正後はそれ自体がリスクにもなりかねません。
もちろん、LINEでのやりとりが、今回の法案にひっかかるような証拠として扱われることも避けたいという思いもあります。僕らとしても、以前のように店ごと摘発されるようなことになったら、本当にたまったもんじゃないですから」(プリンスこうや氏)
では、肝心の「恋愛感情を利用した営業」については、どのように考えているのか。
「別に、うちの店で『色恋禁止』なんて言ってませんよ。自由恋愛も恋愛ごっこも、全然アリです。ホストだってNo.1になるために必死なんですから。
お客様がホストのために頑張ってお金を使ってくれて、そのうえで性行為を求めてくるなら、“むしろ抱け”ってスタンスも変えるつもりはありません。性行為なんて、ただのスキンシップですし。それを求めてくる女性側からしたら、そういう関係がなくなったら、もうただのカフェと同じじゃないですか」(プリンスこうや氏)
とはいえ、女性客が「恋愛感情を利用され、より多く稼ぐために風俗で働かされた」と訴えた場合、今回の改正法のもとでは、ホスト側は非常に厳しい立場に立たされることになるだろう。その点については、どう考えているのか。
「正直、昔は僕も女性客に『もっと(お金)使えない?』って言ったことがあります。それに、お客さんから『もっと稼ぎたいから、いい風俗店紹介して』って頼まれて、スカウトを紹介したこともあります。
でも、今回の法改正以降は、そういう行為は完全にNGです。その点だけは、従業員にもはっきりと伝えていますし、僕自身も今はスカウトとの関係を一切絶っています」(プリンスこうや氏)
では現在、プリンスこうや氏自身は色恋営業をどう位置づけているのか。
「疑似恋愛っぽさを求めてくる女性に対しては、ある程度そう接することもあります。でも、今の僕はアフターに行く時間すらないので、実際にお客様と関係を持つことはしていません。あくまで従業員に対して指導しているだけです。
ホストだって、誰かを不幸にしたくてやっているわけじゃない。ただ、自分の売上を伸ばすことに必死なだけ。だからこそ、従業員たちには“常識の範囲内で営業すること”を徹底して伝えています」(プリンスこうや氏)
取材中、歌舞伎町のホストクラブの看板の中でも一際目立っていたのは創業18年の老舗「シンスユーグループ」の看板に映し出された「僕たちは悪ですか?」の文字。創業者のゆうし氏は、この文言をどういう意図で作ったのか。
「ホスト=悪質と一括りにされてしまいがちですよね。実際『今日生きるために働く』っていう社会のレールから外れた奴が集まりやすい業界でもあるから。かつての僕もそうでした。でもホストとして働く中で意識が変わりました。そんな真面目に真摯に働く奴もいてるんです。みんな悪ではないということを僕が代弁したかった」
改正風営法の施行により、ホスト業界とそこに集う女性たちの関係性は、果たして健全な方向へと変わっていくのだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班