「怪物独裁」イメージからの脱却
国会での大統領就任式を終え、官邸へと戻る李在明新大統領の車列に、手を振りながら「新大統領、ファイト!」と声援を送るひとりの男性。
すると、黒塗りの車の窓から李大統領がひょっこり顔を出し、男性にこう返す。
「ご飯、ちゃんと食ったのか~?」
そののどかな応答に道端の観衆からどっと笑いが起きる――。
いま、韓国内で評判となり、繰り返し再生されている30秒ほどの、短い動画だ。
その直前に、李大統領が国会の清掃スタッフといっしょに撮った記念写真も注目の的だ。20人ほどの清掃スタッフと人差し指と親指でハートマークを作り、にこやかに笑っている。多忙な中、わざわざ清掃スタッフを訪ねたワケを大統領周辺はこう語る。
「昨年12月3日の戒厳令布告で大混乱した国会をきれいに整理してくれたのは清掃スタッフたちだった。李大統領は見えないところでこの国の民主主義のために働く清掃スタッフの献身を忘れないという思いから清掃スタッフを訪ねたんです」
その言動の過激さから「強権的」、「怪物独裁」と保守陣営から批判を浴びることもしばしばだった李新大統領。しかし、大統領就任直後の言動は「庶民的で、かつ目線の低い好人物」というイメージを連想させるものが少なくない。きっと大統領周辺には「怪物独裁」イメージを払拭したいとの思いがあるのだろう。
くすぶる外患罪疑惑の解明も
仕事師のイメージ作りにも成功しつつあるかのように見える。
李大統領の選挙公約の中心は落ち込む民生経済の回復と内乱終息、その上で左右に両極化し、対立を深める国民を和合・統合へと導くというものだった。その公約実現に向け、就任祝賀パーティもそっちのけで意欲的に動き出している。
その象徴がいきなりの夜勤残業だ。初の大統領命令として「非常経済点検タスクフォース」の設置、30兆ウォン(3兆1180億円)規模の補正予算編成などを矢継ぎ早に指示し、結局、就任初日の退勤時間は午後9時40分になってしまった。
さらにはその翌日には国務会議(日本では閣議)としては異例の長さとなる4時間弱のマラソン会議を開き、各省庁の長官からの国政報告に耳を傾けるシーンも。時間を節約するために昼食タイムは設けず、キムパップ(韓国式海苔巻き)をほおばりながらの進行ぶりに、「今度の大統領はよく仕事をする」と感心した国民は少なくなかったはずだ。