農家は10年後には3分の1くらいになるだろうな

昨今のコメ価格高騰や政府の対策についてはどう考えているのか。

「高騰は一時的なものだと思う。小泉大臣が備蓄米について(5キロ)2000円って騒いでるでしょ。備蓄米だからその値段なんだけど、値段が先行して消費者にとっての『コメの値段』も2000円が当たり前になっていく。

でもそれって農家にしたらいくらになると思う? 1俵(60キロ)の玄米を精米すると1割減るから54キロ。2000円だと1キロ400円計算だから1俵21600円か。これは消費者に届く値段だから、精米や袋詰めやら保管、流通など諸経費を入れると半分は減るから1俵1万円ちょっと。これが農家が売る値段になる。10アールあたりコシヒカリだと8俵ぐらいしかとれないから8万円だ。これでは到底やっていかれないな」

染谷さん(撮影/集英社オンライン)
染谷さん(撮影/集英社オンライン)

30年前の1995年7月に廃止されるまで、日本には長くコメや麦など主食の価格や供給を政府が統制する食糧管理法が存在していた。同法に基づくいわゆる食管制度が生産者の最低限の生活を守っていた。

「30年前はこの辺りのコメは1俵23000円してたのに、食管制度がなくなって一昨年まではその半分以下だったよ。逆に機械や農機具、肥料はすべて高騰しているのに、なんでコメだけが下げて当たり前なんだろうな。今回の『2000円』はそれを助長する結果につながりかねない。

小泉大臣は飼料用米だから2000円と言うけど、消費者の頭の中に2000円という価格が叩き込まれる。日本の食文化を大事にしたいという意識もなくなりつつあるのかもな。コメは日本人の主食なのに、値段が高いという印象であれば『コメじゃなくてもいいか』となってもおかしくない。ハンバーガーでもスパゲティでも今は色々あるだろう」

巨大な農機具…維持費もお金がかかるという(撮影/集英社オンライン)
巨大な農機具…維持費もお金がかかるという(撮影/集英社オンライン)

コメ農家が「やっていける」損益分岐点は小売価格だとどれくらいなのだろうか。

「5キロ3000円なら1俵32400円になる。これくらいなら農家も利益が出てくる。今『基幹的農業従事者』つまり専業農家は約116万人で、そのうち7割が65歳以上だから、10年後には3分の1くらいになるだろうな。もう(農業従事者減少に)ブレーキがきかない状態になる。国もなんでそっちに目が向かないんだろうかって思うよ。

今の食料自給率38パーセントも当然維持できなくなるだろうから、とんでもない事態になると思うけどな。所得補償とか公金とかお金の話だけでなく、やっぱり農業にはやりがいがあるって環境づくりにも目を向けないといけないと思う」