「気持ちが弱いから鬱になった」と言われたら僕は死んでいた

「病院には行きたくなかったです。でも『死にたい』という気持ちにまでなってしまい、どうしたらこの苦しさから解放されるのだろうと思って、何かいい方法を教えてくれるかもと藁にもすがる気持ちで行きました」

医師のアドバイスと薬も処方され心は安らぎを取りもどしていった。その後、再入学した高校も卒業。夢だったK-1戦士になるべく上京し、過酷な練習と努力を重ね、史上初のK-1三階級制覇を達成する栄光をつかんだ。

今振り返って、自己嫌悪の末に患った「鬱」から前向きになれた転換点をこう明かす。

「あのころ『K-1甲子園』という高校生でもK-1に出られる大会が開催されて、そこに出ようと目標を立てて頑張って出られたことが分岐点でした。当時は鳥取にいたのでK-1は、エリートしか出られないと思っていたんですが、一度は道をそれた自分でも勝ち上がればK-1に出られると思えたことで頑張れました」

そして、「鬱」で悩む人や、当事者の周囲の人々へこう語りかけた。

「僕は鬱になった時に母親が寄り添って話を聞いてくれました。あの時、もし『お前の気持ちが弱いからそうなったんだ』とか言われたら、僕は死んでいたかもしれません。だから周りの人たちの存在が大切だと思います。

ただ、自分から『鬱』であることを言うことは勇気がいるし、自分で気づいてない場合もあると思います。

僕も3年前に公表するまでは、友達にもジムの仲間にも言っていませんでした。それは、気を使われたり、弱いと思われるのは嫌だと思っていたからです。いろんな家族の形態や関係性があるのは分かりますが、僕自身の経験で言えば一番話しやすかったのは家族でした。

もしも心に不調を感じたら勇気を出して家族に話すのがいいと思います。あと一番いいことは、本人が言う前に家族が異変に気づいてあげるといいと思います。僕は母親が気づいてくれたことで助けられました」

「格闘家はいつでも強く見せなきゃいけない」と思っていたと話す武尊
「格闘家はいつでも強く見せなきゃいけない」と思っていたと話す武尊

さらにこうアドバイスを送った。

「僕は気持ちが浮き沈みした時、友達と楽しい時間を過ごしている時だけは気持ちが安定しました。お医者さんにも『友達と一緒にいるときに出るホルモンが鬱にはいい』と言われました。

僕は友達に病気のことを話してなかったですけど、気を許せる友達といる時間を増やしてほしいと思います。とにかく一人でいるのは良くないです。心を許せる仲間、家族との時間を作ってください」

高校時代に「鬱」を乗り越えた武尊だったが、K-1のトップに君臨した時、新たな精神疾患「パニック障害」にも襲われた。その原因はSNSでの誹謗中傷だった。#2では、武尊が受けた誹謗中傷とその対策、現在の心境を明かす。(#2へつづく

〇いのちの電話 ℡0570・783・556(午前10時~午後10時)、℡0120・783・556(午後4~9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

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取材・文/中井浩一 撮影/村上庄吾

自身が経営する「VASILEUS GYM」にて
自身が経営する「VASILEUS GYM」にて
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