AI予報は現在の数値予報モデルを超えるか?

「AI天気予報」は現在の数値予報モデルとなにが違うのか?  超えることはできるか?  長谷川直之(元気象庁長官)×荒木健太郎(雲研究者)_4

荒木 それでいうと、これからの天気予報のところで長谷川さんが書かれていた降雪予報について、私は2014年の関東甲信での大雪以降、南岸低気圧による降雪を研究テーマのひとつにしているんです。

しかし現実には、いまだに関東の雪を正確に予報することはできずにいます。ちょっとした気温の誤差、あるいは降水量の違いによって、雪になるか雨になるかが変わるからなんですね。

長谷川 そこに荒木さんが収集している雲や雪の結晶の観測データが活かせたりはしないんですか?

荒木 まずは観測データで実態解明の研究をしていますが、正確な予測はまだ困難です。モデルの中で低気圧が過発達したり、沿岸前線みたいなのができて、そこで新たな低気圧が発生したりします。さらには地形的な要因だったり、いろんな現象が組み合わさってくるので。

長谷川 つまり、観測も足りていないし、われわれの理解も足りていないのが実情である、と。

荒木 そうですね。だからこそ、今回の本の中で、長谷川さんが「AIを含めて東京の雪はどこまで当たるようになるか」と語られていたのは、ひとつの研究テーマを与えてもらったような気がしています。

長谷川 AI予報モデルと、現在の数値予報モデルのどちらが先に当てるようになるか、両者のコラボでうまくいくようになるか、興味のあるところです。仮に、AIが当てるようになったら、それ自体が気象学者の研究対象になるかもしれません。

荒木 私もそう思います。専門外なので詳しくないのですが、地球の大気や降水で評価するにしても、AIが大気にどういう時間変化をもって予測をしているのかなど、当たった理由をどこまで深掘りできるかが鍵でしょうね。おそらくAIの学習モデルでは、物理モデルにはない、なんらかの時間変化をさせているはずなので、それを突き止めなければなりません。

長谷川 ところが、AIの方からはそれを教えてくれないでしょう(笑)。結局、そこで数値予報のシミュレーションモデルが出てきて、AIと同じような成果が出せるようになったときに初めて、「ああ、この要因で雪になっていたのか」と理解するようになるのでしょう。

荒木 まさに、そういうアプローチが今後、絶対に必要になってくるのだと思います。