「対立」を煽るXのアルゴリズム
李 それは非常に刺激的なアイデアだと思います。『PLURALITY』には「橋渡し」というキーワードが何度も出てきて、台湾のデジタル政策の一環であるvTaiwanプロジェクトで使用されたソーシャルメディアツールPolisについての記述もありました。
Polisの特徴は、合意形成のプロセスを可視化できるところです。ある投稿に対して「賛成」「反対」「パス・不確定」の3通りの選択肢をクリックすると、各グループがマッピングされて、異なる意見のグループ間を「橋渡し」するような投稿が強調表示される設計になっています。
2015年にUberの台湾進出をめぐって行われた議論でもPolisが使用され、その際も「賛成」「反対」の単純な二項対立とはならず、賛成派、反対派のいずれにも共通する意見がピックアップされ、そのトピックを「橋渡し」に熟議を促すことができたといいます。
私の本(『テクノ専制とコモンへの道』)でも書きましたが、たとえばX(旧twitter)のようなSNS上でしばしば見られる「フェミニズム」と「反フェミニズム」の対立にしても、対立を煽る投稿を強調表示するXのアルゴリズムに、そもそもの問題があるのだと思います。
Polisのように、対立を「橋渡し」するような設計のメディアを使えば、フェミニズム側と反フェミニズム側の両方に実は存在している「共通点」や「共感できるポイント」を発見できて、誤解から生まれる「対立」や「憎悪」を緩和することができるのではないか。
グレンさんが先ほどおっしゃった、「コンテンツに紐付けられているグループを可視化する」とか、「グループ間の境界線を可視化する」というアイデアは、Polisの「橋渡しする」機能とどういう関係があるのでしょうか?
ワイル 橋渡しをするということは、抽象的な概念として述べているわけではありません。たとえば現実の社会を見ても、カトリック教会の中にもリベラル派であるとか保守派であるとか、いろいろなコミュニティがあると思います。
また仮想通貨の社会にもイーサリアムがあり、ビットコインがあるわけです。これらの各領域において、橋渡しの概念は重要ですが、しかし重要なのは、そのより広いコミュニティ内で共有されているものを定義することです。
私のヴィジョンは、グローバルで均一なひとつの世界をつくろうとするものではありません。むしろ多くの交差するコミュニティのそれぞれにおいて、そのコミュニティの成員が共有するものを理解し、その共有意識をメンバーに認識させ、そのコミュニティ内で共通の理解を育むことができるような世界です。
たとえ、その共有するものが、他のコミュニティの人々とは異なる点として捉えられるようなものだったとしても、です。
そしてまた、対立を先鋭化させるというようなことを考えているわけでもありません。アメリカ合衆国や北アイルランドのように、カトリック教徒とプロテスタント教徒の間には分断が存在します。
しかし、カトリック教徒の間にも、カトリックが紛争の要因となっている地域に住む人々との間と、平和的に共存している地域に住む人々との間で分断が存在します。
したがって、これらの分断に合わせてそれぞれ異なる橋を築く必要があるのです。 これを単一でグローバルな問題として捉えるべきではなく、実際には橋を築くことはコミュニティづくりの一環であり、したがって多様性を育むことにもつながっていると考えなければなりません。
橋渡しすることは、一つの均一な世界を作り出すことではありません。それは、物事をつなぎ合わせ、その関係性を理解し、必要に応じてそれらを結びつけるための継続的なプロセスなのです。