チェーン店のファストデザインを支えるフェイク建材
通常の全国チェーンの店舗の場合、コーポレートカラーやブランドカラーを使って、ロゴマークデザインと同様に、内装デザインが全国統一で固定されている。
その結果起きることは何かというと、内装に使われる建材の統一と大量発注である。
外食産業の中で20以上のブランドと業態をもつ日本最大の外食グループ企業があるが、そこではFCも含め全国に5000店舗以上を開業している。
ロードサイドの建築店舗から商業モール内のテナント店舗まで、同一ブランドであれば、同色、同素材で内装のデザインが統一されている。
内装に使われる壁のパネルやカウンター、入り口周りなど赤から橙、黄色の暖色系や木目調の素材が使われているが、これらが各建材メーカーへは指定色や指定素材となり、全国数百店舗ともなれば納入する建材メーカーにとっては安定した主要顧客のひとつということになる。
そうなってくると、メーカーもチェーン店からの固定化した依頼素材を中心に、他の商材を開発し、他の一般商材のラインナップにも反映しながら商品開発するようになる。
結果として、大手チェーン店の指定素材を扱えることが経営上の強みとなり、以前は存在した多様な地域ごとの建材メーカーの淘汰が進んでいった。
それは、巷に流通する建材の種類が絞られてくることに繋がる。
店舗の内装で要求される建材の機能とは、まず建築基準法上の内装規制である不燃性である。不特定多数の人が出入りする店舗では、住宅の内装などに比べて防火対策が非常に厳しくなるのだ。
飲食店ということで衛生面、清掃のしやすさ、汚れにくさ、抗菌性なども建材に要望される重要性のひとつである。
もうひとつ、内装工事費用をできるだけ落とすことができるように、現場でのカットが少なく取り付けの手間を減らし作業性をよくする大きさや、配送時の規格寸法の検討も重要だ。
そして納品前や現場での保管中に、劣化や破損のないような硬度や耐水性なども要求される。
つまり、一般の個人住宅で求められるような、自然木材の風合いとか、手仕事の良さを残した左官仕上げ、現場での養生や次の工程まで待ち時間の多い塗装仕上げなどは、ファストフードのチェーン店では避けられるようになる。
結果として、合成樹脂系の素材で、着色やテクスチャーを付けることもできる薄い板が主流の素材になっていくのである。ポリ合板やメラミン樹脂化粧板と呼ばれるものがそうであり、建材市場はそのタイプの建材を製造できるメーカーの寡占状態に近づいている。
薄い板でありながら表面のデコボコや木目の筋なども表現可能で、艶の有り無しも調整でき、硬度の高いメラミン樹脂の薄い層と、フェノール樹脂という燃えない薄いフィルム状の樹脂に、印刷紙の重ね合わせによって、木目でも石目でもなんでも、ぱっと見ただけでは本物とフェイクの区別の付かないぐらい素材表現が進化している。
現在、日本中の店舗の内装の仕上げ面積の90%以上はこのメラミン化粧板か不燃性の石膏ボードにビニルクロス貼りという仕上げが、担っているといってもいいであろう。
国内どこでも入手が可能で、持ち運ぶにも軽く、汚れにくく、貼りやすい。ということは内装工事の作業効率を大幅にアップし、工事費も工期も短縮できるのである。
こうしたフェイク素材の進化により、かつてなら費用も時間もかかる無垢の木材を削り出し内装していたような高級ホテルであっても、消防法の要求度の高い大型店舗や不特定多数の人々が出入りする映画館や病院などを含め、あらゆる現代建築の内装を支えているのである。